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建築のプロジェクトマネージャに求められる能力

1.プロジェクトマネジメントという仕事​

建築プロジェクトにおけるマネジメントとは、平易な言葉でいうと、

「(どのような状況であれ)なんとかする

という仕事であると常々思う。それほど曖昧で、幅広いことをやっている。

実際、プロジェクトマネージャや設計者などどのような肩書であれ、マネジメントする役割を期待されてプロジェクトに関わるとき、発注者から「なんとかなりませんか?」と相談されることが多い。
あるいは、発注者の立場にアグラをかいた横柄で上から目線のコミュニケーションに染まってしまったのか、実際にはよく分かってないにも関わらず、外注先には明確な指示をしなければと考えてか、「なんとかして!」と一方的に言われることもある。
一般に、こうした発注者や管理職は、マネジメント能力に欠けているといわれるかもしれない。また、「なんとか」という曖昧なコミュニケーションは問題だということもできる。

しかし、それを問題だとしてしまうと、早期で適切なタイミングで重要なことを相談されない人になってしまう。プロジェクトマネージャは、そうした小さな情報をいち早く掴んで先手を打っていかないといけないにも関わらずである。
そして、素人や立場が下のスタッフが問題を抱え、炎上したり、成果物の質が下がることに繋がる。
何が課題で、どうすれば良いか分からないから、専門家に声をかけているという前提を分かって、寄り添ってあげることが専門家や経験値が高い人に求められる。

更にいうと、発注者が、的確・明確に「ここが困っている」「これを作ってほしい」と言えるようなプロジェクトチームであれば、既に問題は半分解決されているようなもので、そこにはマネジメントがあまり必要でなく、各専門業者に外注できてしまう。

つまり、解くべき重要な課題を整理して提示するといった「課題設定」は、プロジェクトマネジメントのコアとなる仕事のひとつである。また、そのそうした課題をどうしたら解けるのかという「課題解決」も同等に重要な仕事である。

プロジェクトマネジメントとは
簡単にいえば「なんとかする」仕事であり、
もう少し踏み込んでいえば「課題設定課題解決」といえるのではないだろうか。私がコアとなる仕事を挙げるなら、「課題設定+解決」であるが、当然プロジェクトマネジメントには幅広い仕事がある。

では、幅広く多様な仕事を可能にする、プロジェクトマネジメントをする人(プロジェクトマネージャ)に求められる能力は何なのか、その多様な能力(スキルセット)を考えてみる。

2.建築プロジェクトマネージャに必要なスキルセット

プロジェクトマネージャには、例えば次のような能力(スキルセット)が必要だと考えられるのではないだろうか。

①課題設定⼒
②課題解決⼒
③洞察⼒
④構想⼒
⑤技術⼒
⑥巻き込み⼒
⑦調整⼒

これらの関係性や特徴を考慮して、イメージを伝えるために図にしたのが下図である。

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まず、プロジェクトマネジメントのコアな仕事は、課題設定と課題解決であると前述したように、プロジェクトにおいて何が重要な課題かを見つける「①課題設定⼒」と、その課題を解決する「②課題解決⼒」は非常に重要であり、両輪で大きな力を発揮する。

それらは、物事の本質を捉える「③洞察⼒」と、ビジョンや世界観を組み上げて表現する「④構想⼒」によって⽀えられる。また、この二つの力も裏表のペアと考えられる。
特に構想力は、建築家の大きな武器でもあるし、求められる。

スキルセットの⼟台となるのが「⑤技術⼒」と「⑥巻き込み⼒」であり、これらが分厚いほどに安定する。どちらもあるに越したことはないが、プロジェクトマネージャが技術者であれば、計画・構造・施工などの実務的専門知識・技能に裏付けされた「技術⼒」、技術者でなければ、多様な人をプロジェクトに巻き込み、存分に力を発揮してもらう環境を作る「巻き込み⼒」が求められる。
つまり、プロジェクトマネージャは、技術が分かる人がなるイメージがあるが、そこまで分かっていなくても、分かる・できる人を巻き込んでいく「巻き込み⼒」があれば、なれるのである。

最後に、これら全ての能⼒をつなぎとめて、実効的に機能させるためには、かみ合わない関係者の意見や、ものごとをすり合わせる「⑦調整⼒」が必須となる。
例え、高い技術力があり、キレのある課題解決力があっても、全方位に調整できる力がなければ、その力は威力を持たない。他者・ものごととコミュニケーションを取って動かすには、その接点(インターフェース)が重要なのである。

3.どのようにスキルセットを揃えていけば良いか

必要なスキルが整理されたところで、目の前のプロジェクトは相変わらず炎上するし、自分のスキルアップにどのように繋げていけばよいか困りますよね。
周りの優秀なプロジェクトマネージャーをみていても、一人でプロジェクトの火消しができるようになるには10年ほどの経験値が必要ではないかと思う。

働き出して数年は、マネジメントよりも、「手を動かす」ことが求められる。そこで貢献できるようになり、心に余裕ができてきたら、できるだけ早くプロジェクトをマネジメントすることを意識し出した方が良い。職種によっては、入社前から、本を読んでは実践を繰り返す場数を踏めるなら、なお良い。30代中盤以降になり、プロジェクトや部下をマネジメントする立場になってから、マネジメントしようと思ってもマネジメントが身に付くのが遅い。

最初は、事務・実務的に手を動かして、自分の人工分を稼ぐことと並行して、自分の強み・得意なスキルを伸ばす。人は必ず個性や興味の違いがあって、何かが得意なはずである。

次のステップとして私の考えでは、得意なスキルで飯が食えるほどに極める前に、足を引っ張るほどに苦手なスキルを底上げし始める。
だいたい、苦手分野は、ずっと苦手なので、私はよく見るメモに、ルーティン(型)、注意事項(してはいけないこと)などを書いて、常に確認していた。

例えば、『人は話し方が9割(永松 茂久)』で挙げられていた、相手に好かれる話し方「拡張話法」
【STEP1】感嘆
【STEP2】反復
【STEP3】共感
【STEP4】称賛
【STEP5】質問
などである。

苦手分野の克服には非常に時間がかかるので、早めに克服に向けて着手し、継続することが重要になる。
それでも、なかなか平均点以上に克服できないものなので、赤点を取らないようにすれば良い。大きな組織やプロジェクトであれば得意分野を使って戦っていけるが、それではプロジェクトが限られてしまう。
独り立ちできるようになるには、周りに迷惑が掛からない程度に、赤点を取らないようにする必要があるので、時間、場数が必要になる。なので、10年スパンで考えて、ゆっくりとスキルセットを磨いていけば良いかと思う。



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