実家の湯沸かし器が壊れる その10

その1はこちら。
https://note.com/tomohasegawa/n/n59bcd0be61d7

その2はこちら。
https://note.com/tomohasegawa/n/naf5e44adc409

その3はこちら。
https://note.com/tomohasegawa/n/n1a4bac5b28fa

その4はこちら。
https://note.com/tomohasegawa/n/n9e0d4914b4b7

その5はこちら。
https://note.com/tomohasegawa/n/n42426e90bb66

その6はこちら。
https://note.com/tomohasegawa/n/ne555869e8f13

その7はこちら。
https://note.com/tomohasegawa/n/na0abedbc7c5a

その8はこちら。
https://note.com/tomohasegawa/n/n84527c5c2eb6

その9はこちら。
https://note.com/tomohasegawa/n/necb0fa2135df

そのスレンダーな女性の名は“バロン”。誰だ??母に聞く、「バロンって方知っている?」。「あんたのお友達じゃないの?」。バロン、ふと思いついたのは名古屋駅にある「Barong's grill and L.D.K.# ばろん」、長い名前だが、要は“ばろん”、ステーキ屋さんだ。ここで去年末に僕の友人、ラコヒロコが演奏をしに東京から来たので観に行った。僕がリクエストをしなくてもプレイしてくれるスティービー・ワンダーの「Bird Of Beauty」のカバーが相変わらずのカッコ良さだった。でもそこにいるのはラコヒロコではない、そしてステーキ屋さんの人でもない。

「バロンです」。あ、外人さんだ。発音がカッコいい。その恰好はどこかCIAとKGBを行き来する二重スパイ、そんな聡明さや俊敏さを感じさせた。僕の好みの女性かもしれないな...そこでピンっと来た。妻が差し向けてくれた出張デリヘルじゃないか?僕がこんなに色々がんばっているから、ささやかなプレゼントよ、って。でもそうなら、それは体の良い離婚宣言となるだろう。そうではない、と僕は思わず首を横に大きく振る。

「お荷物です」。あ、昨日その5のAmazonで注文した折り畳み浴槽のようなものが彼女の横にある台車の上に見えた。「そこに置いてもらえますか?」。彼女は無言で荷物を置き、颯爽と台車を転がし帰って行った。

アマゾン。バロン。僕はこれでも1992年にイギリスのロンドンとブライトンにそれぞれ半年ずつ語学留学している。それでもわからない、リスニング間違い。彼女は相当のネイティブ使いなんだろう。

ポータブルのバスタブが届いた。MI6、自動的に消滅する、トム、等と書かれた文書はどこにもなかったので、安心して中身を取り出して組み立てる。昼ご飯を食べてから再度、とか考えずにあっという間に作ることが出来た。「結構大きいわね」。確かに大きい。我が家の浴槽より深さがあるので、母が跨いで入る際にお風呂場の床に足を滑らせて転んで大ケガ、ということにならないとも限らない。

実際31日夜にこの組み立て式浴槽に熱湯を入れ、試してみた。骨組みがプラスティックで良く曲がるので中に入るのは意外にも簡単だった。足を滑らせることはなかったが、大きいくせして我が家の平たい浴槽のように寝そべることが出来ない。母が、結構快適だ、そう言ってはいたものの、そのポータブル・パスダブは場所を取り過ぎて、全くポータブル感がなかった。

翌1日朝に突如、そこにあるの、全ての骨組みを取り外し、即畳んでコンパクトにしておくように、そう命令が下る。おそらくこのままお蔵入りとなるんだろうな、と僕は思った。返品しろ、と言わない辺りが彼女持ち前の白鳥のような気高さの所以である。

1日午前10時。Sさんが再び我が家に新しい見積もりを持ってやって来た。リンナイの給湯器がリストから外され、PS金枠がリンナイ用からパロマ用のKAPH-13という品番の部品に変更され、部品代以外接続工事費のみの見積もり内容となっていた。

「パロマ用の金枠は手に入りそうですか?」。僕が目下の最重要案件についてSさんに尋ねた。「実はまだ返事がありません。しかし2月4日、金曜日ですが、午前中を長谷川さんの給湯器設置工事のためのスケジュールに入れております。如何でしょうか?」。僕は「もちろん大丈夫です」、そうハキハキとまたドキドキしながら答えた。「それまでに金枠が来ると信じてます」。Sさんがそう言ったのだが、当然僕も同じ気持ちである、そして母も。マンションの管理人さんに給湯器設置工事がその日に行われること、そして駐車場の手配もしてもらい、直ぐにSさんはまた別の給湯器難民のためにいずこへと旅立って行った。

午後にパロマの給湯器用のリモコンMC-150が届く。開けると、中にパロマのロゴ、そしてシンプルなフォントで、“台所リモコン”、“MC-150”、“注意、取扱説明書は必ずお客様にお渡しください”、と書かれている。明らかに業務用という感じだ。お客様は長谷川家(息子)だし、お渡しされるのも長谷川家(母)だ。私から、あなたへ。リンナイから、パロマへ。Amazonで見つけた、悔いのない変更、かけめぐれ給湯~。

そしてなんと2月2日予定のパロマの給湯器本体も、1日午後にリモコンに続いて到着した。パロマガス給湯器と書かれた段ボール箱。先ほどのリモコンと同じフォントを使用しているので好感。だが思ったより大きくなくて拍子抜けした。しかし、“保証書在中”、“かど当て禁止”、“落下禁止”、の文字が並び、威厳さを漂わせ、馬鹿にしないでよ、そっちのせいよ、と言っている気がした。そしてPH-1615AWと書かれたステッカーがしっかりと貼られており、僕は商品番号を目視で確認、確かにSさんが書いてくれた番号と同じものだと知り安堵した。尚リモコンも給湯器も、中をわざわざ開けて確認はしなかった。僕には設置出来る腕もない~、中身を伝える術もない~からだ。

これで万事休す、否万事オッケーだ。そんな、すごいよマサルさんのギャグまで飛び出す余裕さえある自分に驚く。

電話が鳴った。母が出る。「もしもし、はい、今変わります...東京ガスのSさんよ」。

「お電話変わりました」。この時Sさんはまだ一言も発していなかったが、僕にはこれから語られることが決して朗報ではないということを、霊感ヤマカン第六感、不思議と感じ取ることが出来ていた。

続く

その11はこちら。
https://note.com/tomohasegawa/n/n2e55af264ffb


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?