森の王様は誰?
「あのねあのね、もうすぐこの森の王様が決まるらしいよ!」
おっちょこちょいリスのタッタが、そう言いながら走ってやってきました。
「本当に? 一体誰になるのかしら……」
はにかみ屋リスのチッチが言いました。
「本当に? 一体誰から聞いたのぉ?」
食いしん坊リスのツッツが言いました。
「今そこで聞いたんだ。風に教えてもらったよ」
タッタは遠くの風達に手を振りながら答えました。
「ねえタッタ。ママが言ってたじゃない。風たちの話は信じちゃいけないって…」
チッチはおずおずとタッタに言いました。
続けてツッツも「そうだよぉ。風ってやつは、好き勝手にいろんなことを言うんだよ。嘘も本当も関係なく!」と言いました。
タッタは少ししょんぼりして、「でもね、風たちは、木の葉に教えてもらったって言うんだよ。ねえ、そうだよね?」と言いました。
「そうだよ」と言わんばかりに、森の木の葉がざわざわと揺れました。
「ほらね!」
なるほど、木の葉たちが言うんじゃ間違いない。
チッチとツッツは思いました。
それから3匹は、一体誰が森の王様になるのか話し合いました。
「ボクはすばしこいキッキだと思うな」
「私は賢いポッポだと思うの……」
「いやぁ、大きい大きいスッスに決まりだよ」
ああでもない、こうでもないと話しているうち、3匹はだんだんお腹が空いてきました。
「ねえねえ、もうこの話はやめてさぁ、どんぐりを食べに行かない?」
「賛成! そうだ、ボクは昨日、大きい樫の木でたくさんのどんぐりを見つけたんだ!」
タッタとツッツはすっかり乗り気になりました。
頭はもう、どんぐりのことでいっぱいです。
そんな2匹の様子を見て、チッチはまたおずおずと言いました。
「でも、森の王様が誰になるかって、とっても大切なことだと思うわ……」
それを聞き、タッタとツッツは顔見合わせます。
確かにその通りかもしれない、と思いました。
でも、自分たちが話し合ったところで、何かが変わるとも思えませんでした。
なぜなら森の王様がどうやって決まるのかなんて、全く知らなかったのです。
なんて言おうかと悩んでいると、ツッツのお腹がぐ〜っと音を立てました。
森中に響き渡るような、大きなお腹の音。
チッチは思わず笑ってしまいました。
「そうね、どんぐりをお腹いっぱい食べてからでも、いいわよね」
タッタとツッツは嬉しそうに頷きました。
それから3匹は、森の大きな樫の木まで急いで向かいました。
タッタの言う通り、大きな樫の木にはたくさんのどんぐりが生っています。
3匹はパクパクとどんぐりを食べました。
大きな樫の木に生るどんぐりは、それはそれは美味しいものでした。
やっとお腹が満たされてきた頃、タッタはハッと思い立って言いました。
「ねえ、これ、少し持って帰って埋めておこうよ。そしたらいつだって食べられるよ」
チッチとツッツはもちろん大賛成。
持てるだけのどんぐりを持って、家へと帰りました。
お腹いっぱいで幸せな3匹は、森の王様のことなどすっかり忘れてしまいました。
春の日差しの中を、ウトウトとまどろんでいます。
タッタもチッチもツッツも、例え森の王様が誰になったって、たくさんのどんぐりが食べられればそれで構わないのです。
だって3匹は、こんな幸せな午後がいつまでだって続くと思っているのですから。
おしまい
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