翔伍と基次郎

俺の名前は白鳥翔伍。どこにでもいるしがない高校生さ。入学式を迎えたばかりのピカピカの一年生だ。
名探偵でなければ海賊王でもない、火影にも死神にもなれないそんな男、それが白鳥翔伍だ。
だが俺にだって、誇れることが一つある。そう、何を隠そうこの俺は、喧嘩が強い!
今時喧嘩が強くたって、いい大学行っていいとこ就職しなきゃ意味ないって言うやつもいるけど、まあ、俺もそう思う。
だから普段は喧嘩をしない。俺が強いってことは誰も知らないってことだ。

じゃあなんで強いってのがわかるかと言うと、それは簡単。入学式で姿を見かけ、なかなかやり手だなと思った男、そう、親友の金井基次郎に「お前、強そうだな」って言われたからだ!

入学式の帰り道。その一言をきっかけに俺たちは仲良くなった。きっとお互いにヤンキーの匂いを嗅ぎつけていたんだろう。
ただこの学校は染色NG、ピアスも駄目ならカラTも駄目っていうつまんない場所だ。俺たちは傍から見りゃあ、黒髪ブレザーの優等生だった。
でもこのままでいいのかって、俺と基次郎は話した。

「ヤンキーと言えば、決闘じゃん?」って基次郎は言った。
もちろんそうだ。ヤンキーなんて、決闘してナンボだからな。俺だってヤンキーを自称する男。決闘に対する憧れは並大抵のもんじゃない。
靴箱に入ってるのはラブレターじゃなく果たし状がいい。俺はそういう男だ。
ただ一つ、不安要素があった。

そう、決闘罪だ。
1889年に制定された「決闘罪ニ関スル件」という法律では、二人以上の人物が、事前に日時や場所や条件を合意した上で行われるもの、それ即ち決闘であると規定されている。決闘を申し込むか、受ける、ただそれだけで、6か月以上2年以下の懲役となってしまうのだ。
果たし状は、今の日本ではもう実現不可能だ。
法を犯すことなんてして、母ちゃんを悲しませるわけにはいかない。

だが俺たちは決闘罪の抜け道に気付いていた。
そう、事前に打ち合わせしなければいいんだ。そうすれば決闘罪は成立しない。つまり、今ここで俺たちが殴り合うだけなら、それはただの喧嘩で済まされる。
これだな、と二人で顔を見合わせニヤリと笑った。
だが不安要素はまだ尽きない。

そう、学校への通報だ。
やっとの思いで入った偏差値68の進学校。これからの人生のためにも、退学になるわけにはいかない。
制服を着て喧嘩をするのは、かなりリスキーだ。その場で通報されなくても、目撃者の証言で身バレする恐れがある。
そんなことで母ちゃんを学校に呼び出しちまった日にゃあ、俺は眠れなくなる。基次郎もそうだろう。

思案する俺の横で、基次郎が言った。

「ヤンキーと言えば、学ランじゃん?」

盲点だった。俺らが今着ているのは、まだノリのついた新品のブレザーだ。
ブレザーで喧嘩なんて、ヤンキー道に反する。ヤンキーは、学ランだ。
さすが基次郎。入学試験で25位だっただけある。

つまり、だ。俺たちは学ランを用意するところから始めなければならない。
amaz〇nを見てみたら、ちゃんとした学ランは10,000円以上する。
ちゃっちいペラペラのコスプレ学ランなんて着ちゃあ締まらないからな。

俺たちに必要なのは、金だ。
だからアルバイトをしたいところだが、この進学校、あろうことかアルバイトは禁止だった。
まさか母ちゃんに、喧嘩のために学ランを買いたいから金をくれなんて言えない。

八方ふさがりでお手上げだ。
俺は基次郎に言った。

「俺より先に、誰かと喧嘩すんじゃねえぞ?」
「当たり前だろう。俺が最初に喧嘩するのは翔伍だ。だって俺たち、親友だろ?」

基次郎の白い歯がキランと光った。
こいつとは一生親友でいようと思った。

俺のヤンキー道は、まだ始まったばかりだ。

おしまい

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