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このうつ病、会社のせいじゃない?と思ったら

働き方改革と現実との歪み

 働き方改革が叫ばれる昨今、企業はノー残業とさらなる効率性を要求する一方、形の上では有限に制限された労働時間と無限に追及される成果との歪みが生じています。その歪みを吸収するために、むしろこれまで以上のサービス残業による長時間労働を強いられている労働者は決して少なくないでしょう。そのような環境での労働を強いられる今の時代にあって、労働者がうつ病等の精神疾患に罹患することはいつ誰でも起こり得る状態です。日本を代表する大企業においても残念ながら社員が自らの命を断つという悲劇的なニュースが絶えません。仕事も大事ですが、命よりも優先すべき仕事など現代社会にあって本来あってはなりません。

まずはゆっくり休みましょう

 もしあなたがそのような病気に陥ったときには、または今がそうだとしたら、何も考えたり心配したりせず、とにかく休むことです。身体が何もしたくないダルいと訴えている間はそれに従ってただただ休むことです。急に不安な気分が襲ってくる場合もあるでしょうが、今はそういう病気なんだと思えると心が少し楽になるかもしれません。
 金銭面の不安もあるかもしれませんが、精神疾患での休職に対しても健康保険組合に申請すれば(会社および担当医による証明が必要)、傷病手当金を受給することが出来ますので、当面の収入面ではある一定期間の補償が受けられます。また、疾病や怪我による休職期間中に従業員が無理矢理解雇されることはありません(ただし、多くの会社は就業規則で休職を認める期間が明記されている場合がほとんどで、その場合は自然退職という扱いにしているようです。)。

症状が落ち着いてきたら

 もし症状が多少安定してきたら、あなたの疾患の発症は、本当は会社での業務のみに起因したものだったりしないでしょうか?一旦冷静になって考えてみましょう。
 企業にしてみれば、そもそも療養を必要とする診断書を覆してまで従業員を働かせるにはいきませんが、傷病手当金による補償を利用している従業員の休職は、一時的に労働力を失うことと、社会保険料の折半分の支払い以外に企業側のデメリットはありません。何故ならば、この傷病手当金の制度は業務とは何ら関係ない原因で起きた私的な病気または怪我として扱うことを前提としているからです。
 つまり、あなたの今の病気を患った状態に対して会社は何ら責任を負っていないということになります。例えば、あなたの病気が長時間労働やハラスメントに起因したものだとしても、この段階では会社側に責任が問われていない状態なのです。
 もし上記の命題に当てはまる節があったり、会社側が何ら責任を負っていない状態に不満を覚えた場合は下記の策を検討してみましょう。

試しに労働基準監督署へ

 まずは、労働基準監督署(以下、労基署)の総合労働相談コーナーに相談してみましょう。この窓口は予約無しで労働に関することであれば何でも無料で相談することができます。直接、労基署に行って相談を受けることも可能ですし、電話だけでも相談可能です。労基署に相談したことが会社にバレることもありません。今あなたがおかれている状況に基づいて可能な対策案を教えてくれます。ただし、あなたの会社の住所の行政区画を管轄する労基署に相談しなければならないので、事前に下記のサイトを参考にして電話で管轄の労基署を確認することをお勧めします。

労災申請するかどうかの判断

 上記窓口での相談の結果、場合によっては同じ労基署内のの労災課に相談することを勧められる場合があります。その場合は、実際に労災申請するか否かは別として、労災の可能性について窓口担当者から話しを聞いてみましょう。担当者は数多くのケースをみてきていますので、労災が認定される可能性があると判断した場合には、労災申請を勧めてくれます。もちろん、あくまで可能性があるということだけで、実際に認定されるかどうかは何とも言えません。
 なお、精神疾患に対する労災申請の判断基準について公開されていますので、これを事前に確認しておくのも良いかもしれません。
https://www.mhlw.go.jp/content/000863841.pdf 

 何よりも労災が認定された場合には大きな利点を得ることが出来ます。まず、金銭面では、休業補償金は傷病手当金よりも総じて多いこと(ただし、労災が認定された場合、傷病手当金は返金の義務がある)、労災認定された疾病の医療費が遡って全額支給されること、時間面では、傷病手当金のような限定期間がなく疾病が回復するまで補償が受けられることです。なお、労災の休業補償金等は、様々な会社が毎年支払う労災保険料の運用から支払われるものであり、会社そのものが補償するものではありません。会社に対して直接賠償金を求める場合は法的手段を活用するしかありません。

 ところで、ほとんどの会社が労災申請を嫌がります。何故ならば、労災申請されると労基署の調査が入るからです。会社にとって不都合なことも多く聞かれるでしょうし、会社側の非が認められば書類送検すらされてしまう恐れがあります。労災認定や書類送検の事実は有名企業であればある程ニュースになりやすく報道されてしまうリスクをはらんでいます。
 従って、精神疾患で休職中の従業員が労災申請する場合の多くは、会社からの労災の事実証明を受けずに労基署に申請することとなります。
 ただし、会社の意に反して労災申請したことで、労災認定の結果に関わらず、会社に復職しづらくなったり、会社から嫌がらせを受ける覚悟が必要になることに注意しましょう。もちろん出世コースからも自然と脱落することになるでしょうし、役職を外される場合もあるでしょう。労災申請は労働者の権利とはいえ、会社に反旗を翻すことになるため、上記を考慮すると最悪の場合、復職せずそのまま退職することも視野に入れての行動としてじっくり判断すべきです。
 一人ではなかなか判断することが難しい場合には、弁護士や社会労務士といった専門家に相談してみるのも良いでしょう。
 なお、労働問題の解決法として、労基署を介したあっせんという制度もありますが、著者が情報を得ている限り労災申請と比べてその効果はあまり望めません。

 また、労災に加えて会社側と様々な理由でより複雑に揉めた場合は、代理人弁護士を立てて労働審判や民事訴訟といった法的手段を利用する場合もありますが、そうした場合も労災申請を並行して行うことが多いでしょう。国が労災を認めたことになれば、その後の法的手続きにも有利に働くからです。

まとめ

 以上の通り、あなた自身の中で会社側に何らかの責任や義務を負ってもらいたいという思いが強いのであれば、まずは労災申請がその有力手段となるでしょう。裁判と違って労災申請自体は代理人弁護士がいなくても自分で行うことが出来ますし、一人では無理な場合は上記の専門家の力を借りれば良いと思います。



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