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猿若祭二月大歌舞伎〜野崎村・篭鶴瓶花街酔醒〜

昨日、歌舞伎座昼の部を観劇しました。今回は十八代目勘三郎さんの追善興行として、中村屋を中心とした座組です。

1本目は野崎村。田舎娘・お光を主人公に、お染・久松カップルを巡る物語。鶴松さんが歌舞伎座にて古典歌舞伎初主演を務めます。
ビジュアル写真でも可愛らしかったですが、鶴松お光ちゃんは出の時からかわいい!大好きな久松との結婚ということで、全身からウキウキが溢れていました。大根を切る手際がよくて、細切り大根を大量に生成していましたが、毎回どうしているんだろう…
そこに児太郎さん演じるお染が登場。豪華な振袖と髪飾りが目を引きます。こたさんのお染はぽわぽわとした雰囲気で、いかにも世慣れしてないお嬢様。お光が「美しい…」と、顔は負けたと感じさせる美しさ。都会的な色気とかはないから、久松はどこに惚れたんだ?という疑問はやや感じました。
お光ちゃんはお染を見て、久松の恋人と勘付き、玄関から追い出そうとしますが、それも可愛らしい。「びびびびー!」の威嚇が最たるもの。お染はしばらくシュンとするものの、結局あの手この手で家に入ろうとするのはなかなか気が強い。

久松は七之助さん。すっきりとした若者で、女の子たちが惚れるのもわかる。久作は彌十郎さん。鶴松お光ちゃんと並ぶと、祖父と孫に感じてしまう貫録。

後半ややダレた雰囲気がありましたが、ラストは涙してしまいますね。2人を見送るとき、お光も久作も笑顔でしたが、見えなくなると呆然とした表情。お光が落とした数珠を久作がそっと渡した瞬間、堰を切ったように泣き出すお光のまっすぐな姿には、こちらも泣いてしまいました。

歌舞伎だと若い娘をおじいちゃんたちが演じることは普通ですが、お光は年の若い役者の方が似合うのかなと思いました。年を召した方でも可愛らしい姿の方がいいかな。盆が必要なので、浅草でかけられないのが残念。
駕籠の件や凧、鶯の長い音(やや下手だった)に関しては、渡辺保さんが書いてくださっていたので割愛。とくに駕籠は謎時間。

「釣女」はあまり考えずに観られるので、シンプルに楽しかったです。笑えはあまりしないので、そろそろ上演できなくなるかもね…獅童さんはああいうコメディ上手。

「籠釣瓶花街酔醒」は初めて観ました。
1階席で鑑賞しましたが、冒頭の何本もの花魁道中では、「次はどこから?次は誰?」と次郎左衛門ばりにキョロキョロしてしまいました。芝のぶさんもこたさんも、あとで登場する鶴松さんもきれいだったなあ。
場内の熱気が上がる中、八ツ橋が登場。演じるのは七之助さん。髪結の絞りが4本もあったり、背中に紐の装飾が何本もあったりと、衣装が豪華。鳥屋に入るギリギリまでガン見してしまいました。
七三ではふっと笑いかけ、そのまま自然ににっこり。アイドルのファンサをスローモーションで見るような。漫画だったら両面見開き。次郎座衛門だけでなく、大勢の観客も落ちたと思う。

八ッ橋が去った先を凝視する次郎左衛門。勘九郎さん全然瞬きしなくて、そこだけ時間が止まっていました。

次郎左衛門の相手をするようになった八ッ橋。この頃の八ツ橋は仕事として彼を楽しませることに、純粋に楽しんでそうでした。

次郎左衛門の噂を聞きつけて動き出すのは、権八(松緑さん)と栄之丞(仁左衛門さん)。にざさまの栄之丞は湯上りで歩く後ろ姿だけで説得力が違う。吉原1の遊女と並んでも粗がない、男の色気。権八の話を聞いてコロッと八ッ橋を不信に思うのは脚本の謎だけど、女中たちをあしらって家を出る様は嫌味がなくて、かっこよさすら感じる。松緑さんの権八もバランスがいい。ただ2人が並ぶと「敵に回すと面倒だな」と感じるワルさ。

そんな2人に迫られる八ッ橋。恋人・兄への想いはもちろんあるものの、自分を贔屓にしていくれる次郎左衛門のことも大切にしている。その板挟みの心境が、続く愛想尽かしの場面に表れていました。口ではきっぱり「嫌い」と言うものの、ふとした瞬間に見せる物悲しい視線。恋人への愛情、身内への愛情、遊女としての愛情。それぞれは彼女にとって真に大事なものだったと感じられました。

それを受けて次郎左衛門はきっぱりと縁を切ると言いましたが、八ッ橋らが去った後、彼の瞳に光はありませんでした。ああいう時の勘九郎さん、本当に闇が深いんですよね…九重(こたさん)に羽織を渡されて、ようやく目に光が戻りました。あの時点で最期を決めていたのかな。

4か月後に立花屋に戻って来た次郎左衛門。立花屋の大歓迎を受ける中、いそいそとやってくる八ッ橋。2人きりになり、八ツ橋が詫びの盃を交わそうとする。やはり八ッ橋は純粋な人だった。しかし次郎左衛門の表情は豹変。あの日から4か月、きっといつもの笑顔で隠してきたであろう、どろどろとした恨みが一気に表出し、彼を鬼へと変えてしまう。妖刀を手にした瞬間、刀自身も血を求めるように、一直線に八ッ橋へ。八ッ橋の最期は見染めと対比するように、ゆっくりとした海老反り。そして次郎左衛門の幕切れのセリフ。純に生きた遊女の美しく残酷な最期と、それを見下ろす鬼と化した彼が支配する静寂に会場中が息を殺して見守りました。

吉原が生み出すファンタジックな美しさと、一筋縄ではいかない人間たちの心模様を存分に味わえた作品でした。勘九郎さんも七之助さんも当たり役だったし、にざさま・松緑さんはじめ、歌六さん・時蔵さんの立花屋の芯の強い夫婦もよかった。

こんないい歌舞伎を1階でがっつり観られたので大満足です。


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