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設定変更の是非〜舞台「パラサイト」

アカデミー賞受賞作「パラサイト 半地下の家族」が舞台化され、実力のあるキャストにより上演されています。脚本・演出は鄭義信さんです。

今回の上演にあたり、映画からいくつか変更されています。金持ち家族の弟は実際には出てこず(暴れる声だけ)、家政婦の息子が登場する、冷蔵庫の件は全カット、などなど…
なかでも1番の変更が、物語の舞台が「90年代の関西」になったこと。バブルがはじけた後の閉塞感のある空気が、主人公一家が暮らす集落を覆います。
その重い空気を跳ねのけるように、物語は笑いを交えながら進みます。古田さんはじめ、皆さん舞台に慣れているのもあり、脚本とアドリブの境目がわからないほど、自然にボケもツッコミも発していく!映画より笑った回数は多かったと思います。ただ舞台の最後の最後まで笑いを入れていたのは冗長的。コメディが多すぎて、家族の心境の変化がやや浅く、父親の社長殺しが唐突に感じられました。

90年代に設定したことで、映画での「洪水」は「震災」に変更されました。集落が焼け野原になり、一家は体育館に避難。対して金持ち一家は高台だったため、被害はなく、予定通り息子の誕生日会を豪勢におこなう…そんな展開に変更されました。
この変更は良かったのか。私自身、震災は体験していません。が、世間が関東大震災のように”歴史の1ページ"と捉えられるようになっているとはまだ思いません。毎年鎮魂のニュースは見ますし、体験した方も多い。そのなかで映像付き(空襲みたいな映像でしたが)で取り扱うのは、危険なような…関西でも公演があるので、どう受け止められるのか、気になります。
映画では水を使った演出が印象的(雨、洪水、浸水したトイレ)でしたが、それもなくなっています。そして「高台だから、全く揺れなかった」という発言も「?」です。

この作品の軸は「格差社会」や「家族のつながり」といった現代社会の光と闇を、3つの家族を通して描くことだと私は考えています。たしかに「家族のつながり」は、ラストの息子(宮沢さん)の独白に凝縮されていました。ただ映画で感じた、物語に対する客観的に冷静な眼差しは欠けてしまったと思います。ある意味日本人好みになったと言えるでしょう。

新宿・歌舞伎町という、日本で最も欲望と金が集まる街で上演されているのは、なかなか皮肉に感じます。


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