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ミュージカル「カムフロムアウェイ」~出会いの連鎖が生み出す物語

昨日、ミュージカル「カムフロムアウェイ」を観ました。

2013年に初演され、トニー賞等の演劇賞を受賞した作品。9.11の影響で38機の飛行機、約7,000人の乗員・乗客が急遽カナダ・ニューファンドランドの小さな町に降り立ちます。12人の役者が約100人を演じ分けながら、町の人々と乗客たちの5日間を描きます。

日本初演に際して集められたキャストは、いずれも大型ミュージカルで主役を演じられる、指折りのキャストたち。「群像劇なのに、そんなに豪華である必要がある?」と思っていましたが、幕が開いて理由に納得しました。

この作品に出てくる人は、みんな”日常生活を送る普通の人々”。家族・恋人がいたり、仕事に信念を持っていたり、馴染みの飲食店があったりと、私たちと何ら変わらない人たち。ただ9.11によって突如出会うことになった”普通の人”×100人を全員で演じ分ける必要があります。そんな日常の延長をシームレスにノンストップで紡いでいくには、表現力だけでなく、100分間耐えうる集中力・バックボーンが異なる複数の役に対する洞察力が求められます。演出家からは「シンプルに演じなさい」と求められており(アフトクより)、ただ役の特徴をなぞるだけでは作品が成立しません。

12人の役者は演出家の希望に見事に応えていました。幕開きの橋本さんの台詞から始まるや否や、一瞬で物語に引き込まれ、登場人物の個性や背景がするすると頭に入ってくる。この事故がなければ出会わなかったであろう人たちが、偶然出会ったことで生まれる感情の数々。無事である喜びや馬の合う人との出会いによる楽しみ・恋もあれば、事故によって家族を失った心配や、異教徒に対する疑念・憎しみもあり。それが相手にまた新たな感情を生み出し、それらが大きなうねりとなって社会を形成していく様を、一致団結して描いていました。

どの登場人物もチャーミングですが、私が一番好きだったのが、濱田さん演じるアメリカ航空初の女性機長ビバリー。彼女が生い立ちを語るナンバー「Me and the Sky」は、女優全員が舞台上に登場してコーラスを担いますが、それがとてもカッコよかった。

役者だけでなく、音楽も秀逸。時に珍しい楽器も使いながら、ダンサブルな曲から宗教曲のような荘厳な曲まで、多様な音楽が登場。8人のバンドメンバーが演奏しているとは思えない、厚みのある演奏が素敵でした。カテコにも見せ場があるのはいいですね!

物語は9.11から10年後、当時の人々がニューファンドランドに再び集まる様が描かれています。あの混乱のなか、奇跡の出会いを通して「自分はたしかに在る」と認識した人々が一同に集い、自身の居場所を見出した場所で再会を果たしたことに胸が熱くました。まさにミュージカルらしい人間賛歌の一幕でした。

こんな素敵なキャストで素敵な作品ができるのは本当に奇跡だし、多くの人に何かを残してくれる作品だと思うので、もし迷っている方がいたら是非観てほしいです。


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