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現代社会で「生きる」ということ〜エンジェルス・イン・アメリカ

新国立劇場にて、「エンジェルス・イン・アメリカ」を観劇しました。第一部「ミレニアム迫る」・第二部「ペレストロイカ」、2本で6時間半に及ぶ大作を、通しで観ました。


舞台は1985年〜1990年のアメリカ。冷戦とエイズを軸に、混沌とした世の中で生きる1組の夫婦と1組のゲイカップル、そして実在した政治家を描いた作品です。

レーガンによる「強いアメリカ」が押し進められる一方で、政府に軽視されたエイズは「ゲイの病」として恐れられ、差別を引き起こします。また移民の国であるからこそ、肌色や宗教による差別・偏見は日常茶飯事。世紀末とソ連の行き詰まりから将来への不安が増している。でも一方で新しい技術の発明もあり、「新しい世の中」を予見させることも…そんな世に生きる人々の前に亡霊や天使が現れ、彼らは「現状維持」か「変化」の二択を迫ります。

彼らは本当に人間らしい人間。何か特別なパワーを持ってるわけでもないし、絵に描いたような善人でもありません。自身の欠点や欲望と抱えながら、人と対立したり、受け入れたりしながら生きていきます。現代に生きる我々と何ら変わらない人々が、舞台上で生きていきました。

結論から言うと、彼らは最終的に前進することを選びます。そして「生きる」ことをこう表します。

「後ろを振り返って恋しくなって、前を向いて夢を見てる」

過去を背負い、未来に希望を持ちながら、地に足をつけて進んでいく。これほどまでに、1つの台詞に力強い愛と生命力を感じたのははじめてでした・・・
さまざまなアイデンティティを愛しみ、大きく抱擁する作品のカテコでは、観客と役者が互いを拍手で賞賛します。もちろん大作を演じ切った役者へのねぎらいもありますが、この作品が持つ「人間賛歌」を体現しているようにも感じました。劇場から帰る時も、心地よい疲労感と幸福感に酔いしれてしまいました。

1,000円で販売されているパンフレットでは、配役や用語の解説、エイズの歴史など、情報が盛りだくさん。観劇のよい助けになりました。またミュージカル「RENT」の解像度が上がったことも、購入した価値を感じられました。

現実と虚構をかき混ぜて描く、壮大な人間讃歌。日本文化で育った以上、作品を真に理解することは不可能ですが、改めて自己のアイデンティティについて考えるきっかけをもらいました。

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