2018 J3第26節 ガンバ大阪U-23vsガイナーレ鳥取【個のスキルと今後の鍵】
はじめに
J3リーグ中断明けの直近5試合で18得点と攻撃陣が好調ながらも守備に不安を抱えるガイナーレ鳥取。対して、トップチームの指揮官に就任した宮本監督からバトンを受けた實好監督率いるガンバ大阪U-23。両者が激突した一戦を解説する。
両者のフォーメーションとメンバーは次の通り。なお、実際の試合では、G大23は食野をSH、中村をCFに置く[4-4-2]を採用した。
G大23のフォーメーションとメンバー
鳥取のフォーメーションとメンバー
G大23の狙い
G大23は、基本の[4-4-2]から[4-2-2-2]へフォーメーションを変化させて攻撃を開始する。SHが1列内側にレーン移動し、鳥取の[5-4-1]または[5-2-3]に近い守備陣形のボランチ脇を狙い続けた(図1-1、図1-2)。
基本的な手順としては、G大23の2トップが左右のCBをピン留めしつつ中央レーン寄りへ誘導し奥行きを確保。また、両SBが高い位置を取り鳥取のWBをピン留め。これにより、鳥取の以前から課題となっているボランチ脇に広がるハーフスペースを暴露し、レーン移動したSHを利用してアタッキングサードへ侵入する。
鳥取は、2ボランチで対応しきれずハーフスペースへ侵入されそうになった場合は5バックが迎撃したい。しかし、2トップの中村と一美が左右のCB井上黎と西山をピン留めすることで対応させない構造を取っていた。
図1-1 可児-フェル間を通され、井上黎は中央寄りへ誘導する2トップにピン留め。初瀬の対応で開いた魚里-井上黎間のスペース管理が遅れる
図1-2 鳥取ボランチのスライドやCBの対応が厳しいとみれば、高江がスペースへ走り込む
この形は前節F東23が見せた戦い方に似ており、鳥取は前プレを敢行する[5-2-3]の1列目を突破された場合の守備に同じ問題を抱え続けている。
さらに、戦術以前のプレー強度、寄せの距離、スピードなど個のスキルの差が顕著に現れ、G大23の攻撃や守備に対して後手を踏み、一方的な展開を許すことになる。
鳥取の前プレ対策
鳥取はボールサイドの選手へマンマークに付きながら片側のサイドや最後尾のGKへ追い込み、苦し紛れのパスのインターセプト、ロングボールの回収を狙う(図2-1)。しかし、G大23は鳥取の前プレへの対策を準備していた。
図2-1 最後方のGKへ追い込んだに見えたが…
それは、一美が中央へ1列下りる形である(図2-2)。始めに初瀬がドリブルで運び、高江が可児を引き連れながら中央へのパスコースを空ける。と同時に2トップの一美がマンマークされている甲斐を引き連れて中央のスペースでボールを受ける(①)。次に、大外へ開いた高江が可児の背後を取りパスを受ける(②)。さらに高江の1列前にいた井出が内側にレーン移動しハーフスペースで受ける(③)。
図2-2 角度をつけたパス、プレースピードの差を活かして守備網を突破
この際、中村がマンマークに付いていた井上黎を前線へ引き連れながらピン留め。井出がプレーするスペースを作り出す。また、マークに付かれていた一美が降りて受けることで甲斐を最終ラインから引き出し、対応を遅らせる。
鳥取のマンツーマンDFを逆手にとり、レーン移動しながらのスペーシングやポジショニング。ネガトラが苦手な鳥取の1、2列目の脇、背後を狙う意図がはっきりと伺えた。
唯一の突破口
鳥取はG大23のプレッシングの強度とスピードに圧倒され、ボールを確保するのもままならない。しかしながら、前半終盤に唯一の光が射す。
それは、鳥取の十八番となった甲斐のロングフィードである。地上戦ではG大23のプレッシングに圧倒され、中盤以降へほとんど前進できなかった。そこで、低弾道の強く速いロングボールを活用し前線での数的同数、数的優位を生かす戦い方に移行する(図3-1~図3-3、図4)。
図3-1 シャドーの加藤が大外のスペースに開いて受ける
図3-2 サイドへ誘導されたボランチが空けたスペースを活用
図3-3 魚里と可児を起点に、SBが空けた背後のスペースを狙う
図4 WB小林が1列降り、空いたスペースでフェルを起点として直後にカウンターから決定機
前節までとは違い、WBが高い位置から1列下がり、空いたスペースにシャドーが移動してボールを受ける形を採用していた。G大23が前目の位置からプレスを開始するため、WBがSHをあえて自陣に引き寄せ前線のスペースをより広く確保すること。この日はG大23のプレー強度、スピードに苦しめられていたため、被カウンターへのリスク管理をしていたことなどが目的として挙げられる。
守備の問題点とビルドアップの修正
後半も同じ戦い方のG大23に手を焼き、G大23の攻撃ターンが続く。
一例として、中央で井出が1列降りてボールを受ける形。この時、高は井出とポジションを入れ替わりフェルの後方、可児の脇のスペースへポジショニング。井出がボランチの可児を引き付けた瞬間、フリーで待ち構えている高へパス、難なくライン間へ侵入する(図5)。
図5 フェル-可児間を通し、ハーフスペースかつライン間でフリーの高へ
また、セットオフェンスにおいても一美が1列下りる形を見せる(図6)。左サイドで数的同数または数的優位の局面を作り出し、引き付けられた鳥取の守備陣が空けた中央のスペースで井出が受ける。以上のように、G大23は最も危険な中央またはハーフスペースに侵入する形を再現し続けた。
図6 サイドを起点に可児の背後(星野の脇)のスペースを活用
鳥取は依然守備の問題点を抱えたまま時間が経過するも、数少ない攻撃機会のビルドアップに関しては修正が入る(図7)。
具体的には可児が2トップ脇のハーフスペース入口にポジショニング、ときには最終ラインに落ちて4バック化した形から可児を起点に前進させる戦い方へ変更。G大23の守備の基点をずらし、中央のレオへ直接パスが渡る場面も見られた。
図7 可児がハーフスペースの入口に位置。井上黎に大外へ開き、魚里が高い位置を取る
仙石の投入とフォーメーション変更
このままG大23に殴り続けられる状況が続くと思われた後半の終盤、ようやく守備へのテコ入れが実現する。
75分、加藤に代えて仙石を投入。須藤監督は仙石をアンカーに配置する[5-3-2]のフォーメーションに変更することを決断した(図8)。ハーフスペースに可児と星野を配置し、内側に絞るG大23のSHに終始狙われ続けていた危険なエリアをケアする狙いが最大の目的である。
図8 フォーメーションを[5-3-2]へ変更、G大23のSHが利用するスペースを埋める
フォーメーションの変更により、侵入され続けていたハーフスペースに可児と星野を最初から配置することが可能となった。その結果、SHが絞りこのスペースを活用していたG大23は攻撃の最大拠点を失う。鳥取はゴール直前まで簡単にボールを運ばれることが減り、守備の安定度が増した。
このとき、G大23のSBにボールが渡った場合はWBまたはCHが対応。最終ラインは全体がボールサイドにスライドし、4バック化させることでスペースを管理、ハーフスペースのSHへボールが渡ることを阻止する(図9)。
図9 SBへの対応として最終ラインがスライドして4バック化、ハーフスペースはボールサイドのCHが埋める
最後は残り時間が少ない中、守備の安定度が増したことで鳥取がボールを確保する時間帯が増加。相手ゴールへ迫る機会を創り出すも決め手を欠き無得点。J2昇格争いの中、0-2で痛恨の敗北を喫した。
雑感
鳥取は前節まで抱えていた守備の問題をG大23に完全に晒されてしまった。さらに戦術以前のプレー強度、寄せの距離、スピードなど個のスキルに対しても圧倒的なレベル差が感じられたのが正直なところではないだろうか。
ただ、後半の終盤に差し掛かる局面ではあったが、フォーメーションを変更して守備の修正に成功したという好材料もあった。個のスキルの差は短期間で埋めるのは難しいものの、試合中に生じた戦術レベルの問題点を早い段階で発見し、適切な解決手段を講じることができるか。そのような修正力が鍵を握りるのは間違いない。
完敗を喫したものの、今節で得られた経験値や成長が次節以降にどう反映されていくのか、要注目である。