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新たな挑戦

金鍾成監督 (以下、ジョンソン監督) が途中退任され、増本浩平暫定監督 (前HC) 体制になって4試合が経過した。

試合を観ていると監督交代の前後でサッカーの内容が明らかに変わったが、この変化点を曖昧にしたまま今後を見守るのはどうにも腑に落ちなかった。

よって運良く時間も確保できた今、ここで状況を整理しておこうと思う。




ジョンソン監督体制の功罪

前任のジョンソン監督は縦に素早くボールを届け、複数の選手が追い越しを図りながら相手ゴールへ最短最速で迫るサッカーを目指していた。

琉球の黄金期のように、選手たちが前線へなだれ込むように畳み掛けるサッカーは魅力的に映り、ハマると大量得点での大勝というエンタメ的にも申し分ないものだった。

一方で、ハイリスク・ハイリターンなこのスタイルの負の側面が目立ち始める。


  • 縦に速くかつ前線へ次々と人数を掛けるので、間延びをしやすくオープンな展開が増えやすい

  • 速く攻める = 速く帰ってくる (= 相手のターンが増える)


上記のような要因で失点リスクが高まり、既存のスタイルがハマらないと失点を重ねて勝ち点を取り切れない展開が続いていた。

また、最後の方は前線へ速くボールを送り届けること自体に目的がすり替わってしまったように思えた。最終ラインからのフィード一本がFWへ収まらず、相手に即時奪回され押し込まれる展開が次第に増えていたのも否めない。

このような負のスパイラルにもがき勝ち点が次々にこぼれ落ちる状況をみて、クラブは監督交代を決断する。



残すものと積み上げるもの

増本HCが暫定監督に、強化責任者の小谷野氏がHCへ鞍替えし早速変化が見られた。我々サポーターが最初に目に留まったのは442から3421へのシステム変更であろう。(正確には金体制最後の北九州戦から)

体制変更後の試合展開から、このシステム変更を手段のひとつとして新たなエッセンスを加えようという意図がうかがえる。

ひとことでまとめるのは難しいが、ポジショナルプレーの概念の濃度を高め、一手一手の寄りでゴールへ迫るサッカーを取り入れ始めたと推察した。

相手の配置や出方を観察し、的確なポジションを適切なタイミングで取りそのスペースを突きながら相手にダメージを与え続け試合を優位に進めていく。

また、配置のバランスを常に維持しながらチームの原則に従い全員で一列ずつ前進し攻撃に厚みを持たせつつ、ボールを失った直後のネガティブトランジション (ネガトラ、攻→守の切り替え) の局面では即時奪回を狙い2次、3次攻撃へと繋げていく。

上で紹介した動画の例はあくまで究極の理想で、それ相応の個人戦術、グループ戦術等々を最高レベルで身につける必要がある。よって実際には、この考え方をヒントにガイナーレの現有戦力や目指す方向性にあわせてダイヤルを調整しアレンジされたものが落とし込まれている。

ここで、古参の方は須藤氏 (現J2藤枝監督) が率いた2018のサッカーがよぎったかもしれない。当時はブラジル人トリオによる圧倒的な前線の質を抱え今よりオープンな展開が許容されていたので単純比較とはならないものの、やりたいことの方向性は似ており今後の展開におおよそ見当がつくのではないだろうか。

体制変更後、今までよりも落ち着いた試合展開な印象を抱いたのはもちろんだが、長野戦までの直近4試合ではこれらが良い方に機能している印象を受けた。

ただこの変化はジョンソン監督体制からの完全脱却ではなく、あくまで選手の強度を全面に押し出す迫力は残しつつ、新たに積み上げていくスタイルであると筆者は解釈している。



スタイルは手段のひとつ

クラブスピリッツ、ガイナーレ魂の一つに "「挑戦」リスクを管理しつつ、リスクを取ること" という言葉がある。

どのスタイルにも言えることではあるが、今回新たに挑み始めたスタイルは特にこの定義に合致しており、クラブスピリッツそのものとの親和性が高い。よって、チームの存在意義を今以上にサッカーそのもので体現していくことにもつながるように感じるのは綺麗事だろうか。

また、今まで取り組んできた高強度なスタイルの上にピッチの雲行きを読み試合展開を自らの手でコントロールする術を上積みできれば、戻りたいあの景色にまた一歩近づけるのかもしれない。

一方で落ち着きあるスタイルへの変貌は、ジョンソン監督体制を知る者として最初は退屈さを感じたり戸惑いの声もあるだろう。

ただあくまでサッカーのスタイルは勝つための手段であり、相手の出方に関係なく一つのスタイルに固執しすぎるとより緻密な対策合戦を極める現代サッカーではすぐに通用しなくなることも増えている。そのような時代に相手の出どころを探りながら効果的に討とうとする新たな概念を、ピッチに描こうと挑戦する姿はむしろ歓迎されることではないだろうか。

もちろん課題は山積みであるものの、今後のチームの成長と進化を温かく見守っていきたい。



編集履歴

2023/7/17: ジョンソン監督体制ハイライト動画リンク追加
2023/7/20: ネガトラ補足(()内)修正