見出し画像

fuzkueで贅沢な5時間を過ごす

『本の読める場所を求めて』(著・阿久津隆)を読了して、翌日に"本の読める店 fuzkue"を半年ぶりに訪問した。

作品紹介

本はあっても、読む場所がない!
家でもカフェでも図書館でも……ゆっくり読めない。街をさまよう。
だから、「今日はがっつり本を読んじゃうぞ~」と思う人たちが心ゆくまで「本の読める」店、「fuzkue(フヅクエ)」をつくった。
本と、光さえあればできるはずのものが、どうしてこんなに難しいんだろう?
心置きなく、気兼ねなく本を読むためには、なにが必要なんだろう?
なぜか語られてこなかった「読む」「場所」をめぐって、ストラグルし、考えぬいた先に見えてきたものとは?
大部の『読書の日記』に綴る読書の喜びで人を驚かせた著者が、ユーモアを織り交ぜた文体で小説のように書き記す。
「読書」を突き抜けて、「場づくり」「孤独」「文化」「公共」まで眼差す。
――きれいごとをちゃんと欲望しよう。

朝日出版社HPより

fuzkue(本当は”fuzkueさん”と呼びたいくらいだけれど便宜的に省略)には2年前からお世話になっており、”本を読むこと”のみに没頭できる環境に、何度行っても「やっと出会えた理想郷!」と感嘆するし「こんな理想的な場所、なぜここにしかないの!?」と悔しくなる。

本書には、創業者の阿久津さんがどんな問題意識と熱意をもって”本の読める店”を立ち上げるに至ったのか(第1部「本の読めない街」をさまよう)、“本の読める店”を持続させるための経済的な試行錯誤や制度設計(第2部「本の読める店」をつくる)、今後の展望(第3部「読書の居場所」を増やす)などが記されている。

感想と日記

読書するなら“カフェ”と言いたくなるけれど、実際には周囲に座る人に左右されるし…。本書に書かれているような“ブックカフェ”も、自分もパッと思い出せるだけでも4店舗分の思い出があるけど、そのいずれでも「よーし、ブックカフェで読書に勤しむぞ」と意気込んで行ったのに、読書せずに会話するお客さんだらけで「???」と疑問符を頭上でグルグルさせながら、気落ちして、店を後にしている…。また、これも個人的な経験で、在阪時代、運良く見つけ出せた“本の読める場所”が程よく賑やかなビアパブだったのだが、阿久津さんも本書内でパブを挙げていて「やっぱりそうですよね!」と大きく頷いて、該当箇所には付箋を貼った。引用もするし、該当記事の全文公開(太っ腹!)リンクを貼っておくので「なんでパブやねん」と思った方は是非。

こういう場所で本を読むことのよさのひとつに徹底的なにぎやかさというものがあって、これは、静けさが基調となっていてぽつりぽつりと低い声で会話が交わされている状況よりも、むしろ本に集中できるところがある気がする。うるささというのは度を越してしまえば一枚の分厚いノイズとなり、個別の言葉が意味を持たなくなる。

仕事の都合で上京して「また良い感じのパブを探さなくちゃ…」と途方に暮れていた時に見つけたのがfuzkueだった。電車に乗る距離だけど「今日は集中して読み進めたい」という日に時間を作って訪れる店、そんな使い方をさせてもらっていた。ただ、冒頭「半年ぶりに訪問した」と書いた通り、昨今の“不要不急”の四文字が頭をもたげて、向かえずにいた。でも、次の箇所(第9章)を読んで「頻繁には難しいけれど、特別で贅沢な時間を、久しぶりに味わいたい」という気持ちが膨れ上がり、即行動した。

店の方から「雑に使えないようにしてあげる」「使い倒せないようにしてあげる」「自分をいたわるための褒美の時間として」と言ってもらえたので、もう今回ばかりは「今回の外出は本当に特別なことなんだ」とハレの日としてfuzkue訪問を決行。「絶対にここに座りたい」というこだわりもあるため開店15分前には最寄り駅に到着、店の前で待つのは気まずかったので、遠巻きにスマホを触りながら待つ。11:57に看板を出しているところが見え、逸る気持ちを抑えながら12:00になると同時に素知らぬ顔で入店(マスクで表情はそもそも隠れている)。お目当ての席を陣取り、カウンターにいらっしゃった阿久津さんに心の中で「本日は目一杯長居させてもらいまっせ」と挨拶をして、たっぷり5時間、文庫本1.5冊分、満喫させてもらった。久しぶりに味わうfuzkueの読書体験は、本当に特別だった。『本の読める場所を求めて』に書いてあった内容を思い出しながら、他の客に対して“連帯感”を感じて心の中で「いい時間を過ごそうな」とエールを送った。

読んだのは『何者』(著・朝井リョウ)、就職活動中の大学生を描いた小説。自分の学生時代と比較してしまって、共感性羞恥で苦しくなることが予想できて手を出せていなかった作品。自宅だったら、何度もジタバタしてその度に中断しそうなので、fuzkueで一気に読んでしまいたかった。実際、予想通りに心の中でジタバタしたし「ウワー!!」と叫んでいたけれど、澄まし顔で読み切った。「もうやめて!!」と思いながら、チーズケーキで自分を慰めた。

滞在時間「5時間強」、オーダー「ドリンク2杯+チーズケーキ」、いまだに“席料”の仕組みを理解しきれていないので「3,500円は払ってもいいな。4,000円いっちゃうかな」とソワソワしていたが、お代は2,750円だった。fuzkueは会計時に“定価 or more”を選べるので、そこでスマートに「3,500円で」と言えればクールだったのだが「おぉ、思ったより安かった」と感動しているうちにスムーズに会計が進んでしまい、言い出せなかった。支払いそびれた分、fuzukueの有料メルマガに登録することにした。

画像1

また“ハレの日”に


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?