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運は遺伝する: 行動遺伝学が教える「成功法則」 (NHK出版新書 710) 新書 – 2023/11/10

言ってはいけないが、エビデンス(事実)から積み上げて本音を言ってしまう橘玲さんの本なので購入し、読了した。

本書は、行動遺伝学の大家である安藤寿康先生との共著である。中身としては、対談本である。

橘玲さんは作家なので、エビデンスで積み上げると言っても、科学的でない単純化をしている部分があったが、そこは安藤先生がデータがないと一蹴していて、内容についても説得力があった。

行動遺伝学では、一卵性双生児(遺伝的に同一)と二卵性双生児(遺伝的に異なる)をベースに実験データを積み上げていく。また、遺伝の対局は環境となるが、環境についても、共有環境(遺伝以外で家族を類似させている要因)、非共有環境(家族を異ならせている要因)に分類して分析を行っていく。

カナダトロントのCNタワー

本書では、遺伝が知能だけでなく、性格、音楽的才能等、ありとあらゆる分野にて、一般に思われている以上に大きな影響を与えられていることを示している。

一番は知能。日本の教育では、子どもは石板(ブランク・スレート)であるとして、全ての子どもに可能性があるようなことを言うが、実際は遺伝の割合が大きいことをデータで示している。

面白かったのが諸外国ではこの事実が当たり前に受入られており、リベラルの主張が、日本と諸外国で真逆になっている、という指摘。

日本のリベラル主義は、教育により問題解決(=格差解消)を図ろうとするが、諸外国では、遺伝により知能が高く、結果収入が高くなったのだから、そういった一部の富裕層に課税をして、富を再分配しよう、という主張になってきている、という。

また、日本のメディア報道だと、所得の高い親が塾に通わせてよい大学に進学させているとの言説が多いが、行動遺伝学によるデータの蓄積によれば、知能が高い親の子どもの方が遺伝的に優秀で、良い大学に行きやすいという身もふたもない結論となっている、とのこと。

日本のメディアでこういった言説が披露されることはほとんどないが、大量のデータによるエビデンスを見せられると、説得力があると思った。

ただし、こういった優生学にも似た議論は、政治的な危うさもあることをお二人は認識している。

ナイアガラの滝。投光器できれいに照らされている。

提言としては、少しでも適性があり、才能のある場所で戦う、ということであった。身も蓋もない結論だが、なるほどと思った。企業経営においても少しでも強みのある部分で戦い、弱い部分は撤退する、との戦略が一般的である。才能のない場所で戦うのではなく、少しでも才能のある場所で戦うことを推奨している。

行動遺伝学が進めば進むほど、より遺伝子の解明が進み、遺伝子段階での生命の選別が進む可能性がある。個人的にはこれはディストピアの世界だと思っているので、何かしら政治的な規制が必要だと思う。

橘玲さんの言説を、専門家である安藤先生が否定すべきところは否定しており、面白かった。また安藤先生が話されている難しい理論を一般読者にも分かるように橘玲さんが説明しており、二人の化学反応が楽しめる一冊となっている。




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