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くちなしのかおり

出勤途中、高い塀のある家がある。
塀の上からは庭木の緑が覗いている。
その塀を曲がろうとした時、
ふわりと甘い香りが顔にまとわりついた。

これはクチナシの香りだ!

僕は実家の庭先にあったクチナシを
瞬時に思い出した。
甘い良い香りのする花。
母に「いいにおいだね。」と言うと「クチナシよ。」と教えてくれた。
半袖を着る頃になると咲く花だ。

一歩、二歩と進み、三歩目を踏み出す頃には
香りは消えた。

この高い塀を乗り越えて漂って来たのだから、
何本ものクチナシの木が植えられているのだろうか?
それとも満開に花が咲き乱れているのだろうか?

姿が見えないから、僕は想像をするしかない。

一緒だね。
僕はそう思って、赤信号を確認しつつ空を見上げた。

会えないから。見えないから。
僕は君のことを想像するしかない。

もう僕のことなんて
ほんの微塵も思い出さないのかもしれない。
もしかしたら、
君は僕に連絡しようとして躊躇っているのかもしれない。
さよならは君から言ったのだから。
理由も言わずに。僕の話も聞かずに。

信号が青になり、僕は歩き始めた。

あと何日。
いつまでクチナシの香りをかげるかな。
花が散れば、またいつもの朝に戻る。

あと何日過ごせば、君に会えるかな。
まだ僕の気持ちも冷めずにいるかな。
その時まで。

僕は木陰を歩き続けた。

クチナシは、夏の訪れをつげる香りだ。
夏はすぐそこだ。


猫町のように猫も子どもも大人も心地良く過ごせる居場所を創りたい!いつか叶えたい夢はいくつも☺️ 今は、1からピザを作ろう!と小麦や野菜を自然栽培で育てています。(FBページ ちょこ工房)そちらの活動などに有難く活用させていただきます😌