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ボストンの気候正義運動①大学でのダイベストメントキャンペーン

 今回はアメリカの大学における気候正義運動について紹介します。特に学生としての立場を生かし、化石燃料産業に投資を繰り返す大学に対してダイベストメント(投資撤退)を要求するキャンペーンについてです。ボストンの活動家から聞いた話や私自身がNortheastern大学のSunrise支部に関わった経験から今回は主にハーバード大とNortheastern大学における過去のダイベストメントの試みについて紹介していきます。

そもそも、なぜダイベストメント?
 周知の通り、ダイベストメント(投資撤退)とは企業や個人がある目的のために特定の投資先・取引相手から投資を撤退させることを意味する。

 大学が投資撤退しても、他の企業が大学の代わりに投資し続けるのならば気候変動対策としてあまり効果ないのでは?と思う方もいるかもしれない。しかし、それではダイベストメントの意義を見損なうことになる。ダイベストメントを求めるキャンペーンは企業・大学と化石燃料産業との関係を社会問題化することによって、化石燃料産業への投資は人と地球環境の破壊をもたらし、許されないんだ、という規範を作る。一件一件の投資撤退によってどれだけ損失をもたらすことができるかというミクロな視点に立つのではなく、ダイベストメントがもたらす社会的効果とその勢いの拡大こそが目指されているのだ。

 そして2012年から全世界的にダイベストメントキャンペーンが若者中心で始められて以来、社会のあらゆる領域(労組、大学、教会など)に対してその試みは広がっているのだ。(*ナオミ・クライン『これが全てを変える』第10章を参照)

1. ハーバード大〜10年に及ぶダイベストメントの挑戦

 まずは昨年大きく取り上げられたハーバード大学におけるダイベストメントキャンペーンの勝利について見ていきたい。

 ハーバード大は2021年9月に、化石燃料産業から大学基金の投資を全面的に撤退すると発表した。

 世界一の大学基金(財産)を誇るハーバード大学が化石燃料産業から投資撤退するというニュースは大きい。では、これはいかにしてもたらされたのだろうか。実はこのニュースの裏には10年に及ぶ学生たちの行動があったのだった。

 Fossil Fuel Divest Harvardは2012年に設立されて以来、ハーバード大に対して化石燃料産業から投資撤退するように働きかけ、圧力をかけてきた。それには様々なステージがあった。2014年にハーバード大のロースクール生とともに投資が非営利慈善組織としての役割を放棄するものであるとしてハーバード大を訴え、広く問題化した。また、同時期に学生自治会に働きかけ、大学内の学生投票を行い、学生の投資撤退に対する賛同を示した。こうやって徐々にハーバード大の投資を問題化していき、キャンペーンの範囲を広げていった。その後、2015年から2016年にかけても直接行動やティーチインを頻繁に行い、学生の行動力を示した。とはいえ、そこには困難があった。ハーバードは単にその投資においてだけではなく、人的交流面においても化石燃料産業と深く関わっていたためだ。ハーバードの自然科学の研究プロジェクトのための費用の多くが化石燃料産業からのものでもあった。また、ハーバードは資金の運用を民間投資管理会社に任せていて、その内実は全く不透明であったのだ。こういった現状に直面し、キャンペーンは勢いを少し失う。

 このように少し勢いを失いながらも、2018年からダイベストメントキの動きは再燃する。ハーバード大を法的に訴え続けながら、より大きなアクションを行っていくのだ。特に、2019年11月にはハーバード対イェール大学のフットボール試合で500人ほどの学生がフィールドに上がり、大きな横断幕を掲げ、試合を一時間以上停止させた。一大商業イベントとして宣伝されている大学間のアメフト試合を止めさせることで、ダイベストメントキャンペーンは大きくメディアでも取り上げられ、数多くのOBなどからも支持を受けるようになった。

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 大規模なアクションを通じて大きく問題化させることができてから、コロナ禍においてもオンラインなどでキャンペーンを展開し続けてきた。そしてこのような粘り強い試みの結果として、今年9月にハーバード大は化石燃料産業から全面的に投資を撤退することを発表したのだ。

ダイベストメントからReinvestmentへ〜

 勝利後も学生たちはただ満足感に浸るのではなく、この勢いを様々な社会運動が連帯できるためのプラットフォームを形成するために積極的に活用している。Land Grab(投機や多国籍アグリビジネスのために土地を買い上げたり、収奪すること)への投資撤退や監獄ビジネスからの投資撤退などを「Endowment Justice(基金運用の正義 )」のスローガンの下で求めているのだ。地球や人間生活を破壊する産業に投資するのではなく、持続的な関係の再生産に重きをおく地域コミュニティ団体にその資金を再投資Reinvestすることを求めているのだ。そしてそのためには引き続きフォーラムを開き、大学内でのシットインなども行っている。



2. 一校で止まらない〜学生間の協力体制

 こういったダイベストメントの試みは何も各大学でバラバラに行われているわけではない。大学間の活動家の間でのフォーマル・インフォーマルなネットワークがあるのだ。フォーマルなものとしては、例えば大学間のCollege climate coalitionなどがある。各大学のダイベストメントの成功事例や戦略などをシェアするネット上のSlackチャンネルだ。また、このCoalitionは具体的にキャンペーンを展開するための導きとなるガイドも作っており、これも非常に参考になる。また、それ以外にもボストンのNGOや活動団体がスライドやさまざまなリソースを提供しており、運動側はこれを積極的に活用している。

 また、実際にボストンの大学の気候オーガナイザーが集まり、ダイベストメントを共同で呼びかけるアクションも行っている。私自身も大雨の中、ボストン中の大学からの気候正義オーガナイザーが集まるアクションに参加した。そこでは各大学のオーガナイザーが自分たちの経験について語り合った。特にハーバード大学のベトナム人留学生の女性のスピーチが印象的だった。

 こういったものに触発されながら、大学のダイベストメント運動は単に大学単位で投資撤退させるのではなく、いかに大学でのキャンペーンからグローバルサウスの活動家と連帯するか、というのが徐々に意識されている。例えば、、ハーバード大では戦闘的に活動する留学生も多く、それらの留学生は本国現地の活動家とも繋がっているのだ。

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 しかも、連携相手は他大学のオーガナイザーだけではない。ダイベストメントに中心的に取り組むNGO団体のオルガナイザーがダイベストメントを効果的に求めるために必要な運動内の組織化のあり方や発信や連携の仕方について具体的なアドバイスをくれる。僕が在学していた大学のSunrise支部でも、経験のあるオーガナイザーがキャンペーンの目標をはっきりさせたり、組織化についてのアドバイスを与え、意見交換するセッションを設けてくれた。また、経験あるオーガナイザー自身のかつての活動の経験も伝えられ、学生たちのインスピレーションとなってのだ。

3 . Northeastern大学でのダイベストメントの試み

 ハーバード大のダイベストメントの話を聞くと、ダイベストメントは比較的スムーズに進んだ、という印象を持つかもしれない。しかし、ダイベストメントは長期な取り組みで時には地道な活動と粘り強さが必要とされる。Northeastern大学でのダイベストメントの運動はまさにこのことを物語っている。

 Northeastern大学でのダイベストメントキャンペーンは2014年にまず、大学側の投資先を明らかにすることから始まった。そういった情報を引き出すためのてことして学生投票を行い、75%の学生がダイベストメントに賛同してる、という意思を表明した。この支持率をもとに学生団体DivestNUは大学の責任者に対して面会を求め、その場ではNortheastern大学が3000〜6000万ドルを化石燃料産業やパイプライン建設業などに投資しているということを割り出すことに成功した。特に私立大学の場合、投資先のリストを公開することがなく、また、直接化石燃料産業に直接投資しているというよりは、投資ファンドが間接的に投資することが多いため、そもそも大学がどこにいくら投資しているかを割り出すのが困難だ。そうであるがために、この情報を引き出せたのはこれは重要な第一歩だった。

 その後、DivestNUは本格的にダイベストメントキャンペーンを展開していく。自分たちで戦略を考え、Visitors center や広場でシットインなどのダイレクトアクションを行っていく。

 そして最終的には授業をボイコットし、13日に渡って、大学内でシットインを行った。最終日に大学の責任者は学生団体と会うことを約束したが、しかし大学側は実質的なダイベストメントをはじめ、DivestNUの要求をほとんど飲まなかった。運動はこれ以上圧力をかけることもできず、ダイベストメントに失敗したように見えたのだ。その後、2016年にダイベストメントキャンペーンを主導したオーガナイザーは卒業し、ダイベストメントの火は完全に消されたかのように見た。

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 しかし、こういった失敗をもとに2020年に新しく誕生したのがNortheastern大学のSunrise支部だ。後編ではSunrise支部の新しい取り組みと先住民を中心に据えたボストン全体の気候正義運動を見ていく。


【参考】
https://huntnewsnu.com/44271/campus/the-fight-for-fossil-fuel-divestment/
https://www.theguardian.com/environment/2021/sep/10/harvard-university-divest-endowment-fossil-fuels
https://harvardpolitics.com/reviving-divestment/
https://duclarion.com/2022/02/a-look-into-student-divestment-campaigns-at-u-s-universities/







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