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ラドオと老人

幾千年の昔、森に住む老人がいました。老人は一匹の狼を飼っています。名をラドオと言いました。とある日、老人はラドオに言いました。
「ラドオ、狩りに出掛けるぞ。わしについてこい。」
ラドオは答えました。
「嫌だね。俺は今日は疲れてるんだ。じいさん一人で行ってこいよ。」 
しかし、老人はラドオの言葉を無視して出発しました。ラドオは呆れ、仕方なくついて行きました。
しばらく歩いていると、ラドオは石につまづき、足を怪我してしまいました。老人は心配し、尋ねました。
「ラドオ、大丈夫か?歩けるか?」
「無理だ。このまま歩き続けたら、きっと一生歩けなくなるだろう。」 
すると、老人は何も気にかけず、さっさと先へ進み始めました。ラドオは驚き呆れ、戸惑いましたが、ついていくしかありませんでした。
ラドオは怪我した足を引きずりながら歩きました。そうして日が沈み、辺りが暗くなってきました。すると、ラドオは足に気を取られて辺りを見ておらず、足を踏み外して崖から落ちてしまいました。すぐに老人が降りてきて言いました。
「ラドオ。大丈夫か?やっぱりさっきの足の傷が…」
ラドオは答えました。
「お前のせいでこうなった!俺が歩けないと言ったのにもかかわらず、散々歩かせやがって。お前なんて死んでしまえ‼︎」
すると老人は言いました。
「…なんだ。それだけ元気よく吠えるということは、大丈夫なのか。そうか、よかった…。」
ラドオは混乱しました。まさかこの老人は俺の言葉が理解出来ていないのか?今俺がこうして足の怪我を声高らかに訴えているのですら、この老人にとっては単なる元気な遠吠えなのか?まさか、今までずっと俺の言葉を理解できていなかったのか。あの時も。あの時も。あの時も。
すると老人は涙を流しながらラドオを抱きしめ言いました。
「本当に良かった。ラドオ、お前が無事で良かった。わしがもう少しお前に注意を払っておれば防げたのに。わしはもう少しでまた家族を失うところだった。生きていてくれてありがとう。」
ラドオは反省しました。そして数年前、自分が瀕死のところを偶然通りかかった老人に助けてもらったことを思い出しました。あれほど心優しい老人に罵声を浴びせた自分の愚かさに呆れました。
「今日の狩りは無しだ。ラドオ、帰ろう。わしがおぶってやる。」
ラドオは元気よく返事をしました。すると突然、草木が茂る音が聞こえました。なんと、辺りを見回してみると、無数の狼の群れが、二人を取り囲んでいたのです。そこでラドオは気づきました。さっき吠えた自分の声のせいで、近くの狼の群れが集まってきたのだと。そして躊躇なく狼達は老人に襲いかかりました。ラドオは必死に訴えました。
「みんな、違うんだ!その老人は俺の命の恩人なんだ。お願いだから襲うのをやめてくれ!」
しかし狼達はいうことを聞いてくれません。しばらくして狼の群れが去っていくと、そこには骨も何も残っていませんでした。ラドオは悲しみに暮れ、自害してしまいました。

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