Patient Journey mapは「描く前」が大事
はじめに
Patient Journey mapを作成する理由
Patient Journey mapを作成を目的としたインタビュー
インタビューの工夫
患者さんへのインタビューにおいて最も重要なこと
最後に
はじめに
Patient Journey mapの作成を目的とした患者さんへのインタビュー調査が増えています。患者さんに対するインタビューをする際に大切なことを、書いてみたいと思います。
尚、この記事は2021年に日本実業出版社から出版された「この1冊ですべてわかる オンライン定量・定性調査の基本」の4章(4-4)に寄稿した文章を一部加筆しています。
Patient Journey mapを作成する理由
下記のような理由で、Patient Journey mapを作成するためのインタビュー調査のニーズが増えています。
そもそも自社の薬剤を投与された/投与予定の患者さんが「症状を自覚してから、現在までどのようなヒストリーを辿り、どのように考え、想い、暮らしてきたのか、ペインポイントは何か」を知りたい
患者さんの視座・視点からの患者支援プログラムを創るために、どこに認識のGAPがあるのか、どこに役立つ機会があるのか探りたい
専門的な医療用語を患者さんにとって、理解しやすい有益な情報に置き換えたい
時代や環境の変化に伴う既存のPatient Journey mapをアップデートしたい
患者セグメンテーションの切り口を探求したい
Patient Journey mapを作成を目的とした調査
患者さんの「Journey(ヒストリー)」を知るために、75~90分のインタビューを実施して、詳細で、できる限り深い情報を取得することが、2024年1月時点では、まだ主流になっています。患者さんが「疾患に関すること」や、「その疾患を抱えた暮らし」を語る時の表情や発言は、実際にマーケティング施策を練る企業に大きなインパクトを与えるものとなります。他にもビジネスエスノグラフィー(オフライン/オンライン)、MROCなどの手法がありますが、調査期間が長くなり、費用もかかることから、検討段階で候補から外れることがほとんどです。
Patient Journey mapを作成を目的としたインタビュー
現実的で、より深みのある発言を引き出すには、「インタビューの仕方」や「患者さんの気持ちの汲み方」などに工夫が必要です。
ここでは、下記の3つの工夫をご紹介します。
・インタビューガイド(調査票)の流れ
・疾患知識、医療知識をもつモデレーターの起用
・直截(ちょくせつ)的に気持ちを聴くことを避ける
インタビューガイド(調査票)の流れ
消費剤系のインタビューより長い「75~90分」を設定しているとはいえ、患者さんのそれまでのJourneyの長さからすれば、とても短い時間です。従い、効率的に時間を使う必要があります。最も有効な方法は、患者さんの思い通りに話していただくことです。インタビューガイドに無理に合わせようとして、話を戻してしまうと、患者さんの「思い出し」や「思考」の流れを止めてしまい、別の話題に対して、最初から「思い出し」や「思考」をしなければならなくなります。その結果、時間切れとなり、最後まで聴けずにインタビューを終わらせざるを得なくなるケースもあると聞きます。疾患を抱える患者さんに対してインタビュー時間をオーバーして体に負担をかけてしまうのは、どうしても避けたいところです。「患者さんが思い通りに話したら、必要なことを聴けないのでは?」と思われる方もいるでしょう。しかし、そこはプロのモデレーターの腕の見せ所です。モデレーターは、Patient Journey mapの完成形が頭に入っています。どの情報が取得できていて、どの情報が取得できていないかを把握しているので、上手に相槌を打ち、患者さんの話に寄り添いながら、未聴取の発言を引き出せるように話をずらしていきます。結果、聞き漏らしが防げるのです。
疾患知識、医療知識をもつモデレーターの起用
モデレーターは疾患や医療についての専門知識をもっていることが必須です。患者さんは嘘をついているつもりがなく、勘違いでお話しされることもよくあります。例えば「初回の治療で使われるはずのない(保険適応になっていない)薬を最初に投与した」という発言に対し、モデレーターが「おかしい」ことに気づかずインタビューを終了してしまうと、作成したPatient Journey mapを見た企業の方から「このようなJourneyはありえない」と言われてしまうでしょう。医師のインタビューが実施できるほど専門性が高く、患者さんのインタビューに精通した、患者さんの気持ちに寄り添うインタビューができるモデレーターを起用することは非常に重要です。
直截(ちょくせつ)的に気持ちを聴くことを避ける
車や化粧品や飲料など耐久財・消費財のCustomer Journey mapの中でよく「顔の表情のイラスト」をつけて気持ちのアップダウンを示しているものを見かけます。「購入前の比較検討時の気持ち」や「購入した時の気持ち」「購入後にSNSでシェアする時の気持ち」を可視化することは、コミュニケーション戦略を策定する上で大変重要だと思います。しかし、Patient Journey mapの主体は「患者さん」です。完治することが難しい重い疾患、希少疾患、難病 だと診断されたら「つらい」し「悲しい」し「その後の生活はどうなってしまうの?」と不安になることはインタビューをしなくてもわかることです。「診断されたときはどう思われましたか?」と初対面の人に聞かれることが、どんなに残酷なことか、想像に難くないでしょう。更に、例えば「辛くて一晩中、泣きました」という患者さんの発言の後に、「顔の表情のイラスト」を提示して「その時の気持ちを選んでください」と聴くことは、患者さんに「インタビューに協力しなければよかった」と失望させてしまうことにもなりかねません。どうしても「顔の表情イラスト」を報告書に記載する必要があるのであれば、分析者が発言時の患者さんの表情や発言から判断することが望ましいと考えています。患者さんを「ひとりの人」として尊重し、聴きづらい質問に関しては、違う切り口で聴取し、その結果、回答が得られる方法をとるなど、聴き方を工夫することは必要不可欠です。
患者さんへのインタビューにおいて最も重要なこと
患者さんへのインタビューが「その後の生活に悪い影響を及ぼすことがあってはならない」という意識を一貫してもち続けることが最も重要です。特に、インタビュー中の「新薬の評価」では、患者さんが過剰な期待をしてしまうような内容の提示は避けてください。そして、主治医に対して不信感を抱いてしまうような質問をしないよう細心の注意を払ってください。例えば、「今、服薬しているお薬は、診療ガイドラインで推奨されていないことをご存知でしたか?」といった質問が該当します。
最後に
患者さんの辿ってきたヒストリーや考え、想い、ペインポイントの聞き取り後、忘れてはいけないのは、患者さんが疾患や薬について調べた結果「何が明らかになり、何がわからないままになっているか、今、どんな情報が必要か」は、インタビュー中にしっかり確認をしてください。それを報告書の中で状況に応じて整理することにより、患者さんを支援する機会と方法の考察につがなります。さらに「その時、なぜその情報が必要だったのでしょうか」という問かけは、患者さんが当時の気持ちを思い出し、語ってくれるきっかけになり得えるものだと思います。
患者さんのインタビューについては、リクルート方法なども書きたいことは沢山あるのですが、またの機会にお伝えさせてください。この次は、「インタビューをしてPatient Journey mapもできたけど、この後、どうするの?」というケースで「こういうのもありますよ」的なものを書いてみたいと思います。これからもどうぞ、よろしくお願いします。
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お読みいただき、ありがとうございました。いただいたお時間に感謝します。この記事がこの先、どこかで役に立つことを願っています。