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サプリメントが眠りの何を補っているのか

睡眠によいサプリメントを試してみようと思う人は,少なからず睡眠に悩みを抱えているのだと思います。

そのサプリメントは本当にあなたの悩みを解決してくれるのでしょうか?

「睡眠によい」サプリメントと睡眠薬の違い

不眠症に効果がある医薬品であると認めらている睡眠薬は,どのくらいの量を飲むと眠りにつくまでの時間が何分短縮するのか,途中で目覚めてしまう時間が何分短縮するのか,睡眠時間は何分延長するのかといった事前に決められた項目について,市場に出る前に評価されています。偶然の結果ではなく,意味のある違いであることを証明するためには,数百人から数千人の規模で調査を行う必要があるため,多くの労力がかかっています。

一方でサプリメントは「しっかり休む」「ぐっすり眠る」「スッキリした朝」「眠りをサポート」といった,定義が明確でないメッセージを掲げることが許されています。厳密に科学的な検証を行う必要はなく,少数のボランティアを対象に感想を聞くという程度の調査を行えば,販売することが可能となる場合もあります。それらしい数値が示されているものもあるのですが,十数人から数十人程度を対象とした調査がほとんどであり,科学的な手法とは程遠いものです。

科学的でないが故に,ふんわりしたメッセージで,なんとなく効きそうな謳い文句を付けることが許されます。もしかすると,こういったところが医薬品よりも魅力的に映る理由なのかもしれません。

「睡眠によい」サプリメントに含まれるもの

  • グリシン(非必須アミノ酸)

  • テアニン(緑茶に含まれる旨味成分)

  • GABA(脳の神経伝達物質)

  • ラフマ(天然ハーブ)

いずれも少し調べてみると,機能性表示食品としての申請にあたり,十数人〜数十人規模の研究を実施したことが示されています。検出したい違いを証明できる規模の研究でないのは先に触れた通りですが,その点に目をつぶったとしても,示された効果についても多くの疑問が沸いてきます。

例えば「起床時の疲労回復」を期待できると言われたときに,これは睡眠の質がよくなったことが理由だと言えるのでしょうか。「ノンレム睡眠の割合が増えた」と聞くと何か良さそうと思うかもしれませんが,レム睡眠が減るという意味では睡眠の質が悪くなっているようにも思われます。ノンレム睡眠の中で深睡眠が増えたかどうかが重要なのですが,多くの人は疑問を持たずに「睡眠がよくなる」と理解するのかもしれません。

動物実験で睡眠に対する効果が示されている物質について,商品化にあたり体重換算で10分の1くらいの量に設定されてしまっても,同じような効果が得られるのでしょうか。何かの食品に「睡眠によい成分」が入っているらしいという話になるとき,実際には何トンも食べないと効果がないということはよくある話です。

なぜ人はサプリメントを求めるのか

それでも医薬品よりもサプリメントの方が魅力があるように思えるとしたら,それはなぜなのでしょうか。この理由を少し考えてみましょう。

サプリメントは健康意識が高いイメージ

病気と結びつく医薬品には暗いイメージがあり,健康と結びつくサプリメントには明るいイメージがあるのではないでしょうか。サプリメントを飲んでいるというと,健康を意識しているようなイメージをもつ人も少なくないのだと思います。

実用性よりもブランドイメージに魅力を感じるのと同じように,健康意識が高いという「見え方」を求めているのかもしれません。実際に健康になることを求めているわけでないのであれば,それでもよいのかと思えてきました。

病気と言われることを避けたい気持ち

血圧が高めの人に効果があるとされる,GABAを配合した機能性表示食品は,一定の効果が示されたために機能性表示が可能となってはいるものの,口から摂取したGABAが神経伝達物質として脳に入らないことは,医学を学んだ人にとっては常識です。機能性表示食品とはこのレベルものであり,高血圧と診断された人には薬として提供されることもありませんし,医師が勧めることもないでしょう。

思うに,こういった機能性表示食品に頼る気持ちは,自分はまだ高血圧という病気ではなく「血圧が高め」なだけであるという,病気という診断を受けることへの恐れからくるのではないかと思っています。

睡眠に問題があるという現実をいったん遠ざけ,仕事やストレスのせいで「よく眠れない」だけだと言い聞かせているのかもしれません。「眠れないから薬を飲む」と考える前に,ほかにも効果のある方法がいろいろあります。

科学的根拠が乏しいほど魅力的になる理由

科学的根拠が少ないものを販売するには戦略が必要です。医療保険の対象ではないため,ビジネスの世界で勝負することになり,全力でマーケット戦略を練る必要があります。研究よりも広告に資金を投入できるというメリットもあります。「眠れない」と検索すれば,サプリメントの購入に誘導するwebページにはあっという間にたどり着くことができるでしょう。

医療保険の対象になる医薬品を用いた治療指針は,医療業界の中では明確になっているため,そこに競争ななく,そこから敢えて足を踏み外す人たち以外は,不用意なマーケット戦略を行いません。むしろ医療業界の中では,明らかなマーケット戦略を行っていれば,保険外診療あるいは科学的根拠が乏しい行為であろうと想像してしまうものです。

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「睡眠によい」サプリメントは,あなたの悩みを解決してくれそうでしょうか。

眠りのnoteでは,正しい知識とよい睡眠の習慣を身につけることで,あなたの睡眠を改善したいと思っています。


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