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KUZU3

この寂しさに気付かなければ良かったのかもしれない…


私の日常は、夫が起きてくる前にお湯を沸かし、コーヒーを入れる。

トーストを用意する。

クシャクシャの髪で、二階からのっそり降りてくる夫。

「おはよう」

私が声をかける。

しかし、それは独り言になる。

夫の横で、私の声とTVの音だけが響く…

夫は淡々と歯を磨き、服を着て、朝食を食べて出て行く。

私は慌てて後から追うように、重たい気持ちで会社へ向かう…

夫は小さな会社を経営している。

夫の親族も働いている。

数年前、私は前の会社を退職し、夫の仕事を手伝う事になった。

毎日一緒に働く夫の職場は、私にはアウェーだった。

かつて、自分が頼りにされて働いていた職場を恋しく思ってしまう。

こんな時、上司は私を褒めてくれた。

「お疲れ様」「おはようございます」と笑顔でいてくれる同僚や上司がいた。

私を認めてくれる会社があった。

なのに、私は自分のやりたかった仕事でも無く、やって来た仕事とは畑が違う仕事をする事になった。

最初は夫を支えたい気持ちで頑張った。

しかし、私の気持ちとは裏腹に、毎日気持ちが滅入ってしまうような事が起きる。

結婚前には優しく思えてた夫が、冷たく、ドライな人間に思えるようになった。

ずっと一緒に過ごす時間が、どんどん苛立ちに変わった。

お客さんも私には敵だった。

「お義理母さんならもっとちゃんとしてくれたのに!」

「あんた嫁なの?」

こんなに失礼な対応はこれまでに受けたことが無かった。

差別を事あるごとに厳しく向けられた。

頑張ろう…認められよう…

その思いは上手くやればやる程、姑に疎まれる事にもなっていった。

悲しい言動に毎日傷ついた。

そんな時間に私はどんどんくたびれた。

その上、子供の出来ない焦りも私を辛くさせた。

「なんだ子供まだ出来ないのか?」

「作り方教えてやろうか?」

酷い言葉を知り合いの人間から、何度も浴びせられた。

何も悪い事をしてないのに、世の中の人間はこれ程までに冷たくて意地悪なのかと心が朽ち果てそうになった。

誰にもこの辛さを打ち明けられなかった。

幸せに見せなきゃいけなかった。

幸せを演じるのは一生続くのだろうか…?

夫の前でも、前向きに明るく頑張らなきゃ…そう思った。

こんなに嫌なことばかりでも、「私は感謝せねばならない」そう言い聞かせた。

「皆悪い人じゃ無い。こんな事を思ってしまう私が弱くて、ダメな人間なんだ。」

他人を恨まない事で、良い人間になろうと必死だった。

嫌な人間にも、妻にも、嫁にもなりたくなかった。

私の周りは誰にも笑顔でいて欲しかった。

私は無理していた。

本当に幸せになりたかった。

ただ、普通の温かい家族が欲しかったから…









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