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黒 雲

黒 雲

ひかり号のなかで

男たちがまばらに座っている

窓ぎわにひとり

流れる景色を追っている

週刊誌の活字に顔をうずめている

うすい眠りに身をまかせている

企業ばちが

孤独に

飛び交って

旅をつづける

ダイが空いたシートを手でたたいて歩く

車内の停止した風に向き合って

引きちぎられた車外の風が

高架下の

民家に

アパートに

マンションに

建売住宅に

カミソリの刃となって切り込んで行く

鼓膜を突き抜けた風は

たたみに正座した老婆の髪をなびかせる

きしんだ表戸は

波状型に揺れる

車内の停止した風に身をまかせ

クミがぐっすりと眠りこんでいる

白いシート

仕切られたガラス

あつい境界線

男たちは

引きちぎられた車外の風を捨てる

民家は土にしっかりと根づいている

ひかり号は突っ走る

山のいただきに

黒雲が三つ

湧いている

詩誌[あじさい」より (28)

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