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『川柳EXPO』 の感想

2023年8月10日に私も参加させていただいた、投稿形式の川柳アンソロジー『川柳EXPO』のペーパーバック版がAmazonで販売を開始されました。

https://qr.paps.jp/TmThe

私は川柳をはじめてから、まだ1年ほどの初心者ですが、川柳の鑑賞眼を養う目的もあり、感銘を受けた句についての感想を記したいと思います。
川柳への理解がまだ未熟なため、句の作者の方には不快に思われる内容などありましたらご対応しますので、ご連絡をいただければ幸いです。
下記に、Amazon販売ページから『川柳EXPO』の簡単な説明を引用しておきます。

2023年5月、まつりぺきん(編著者)の呼びかけにより集まった、51名の川柳作家による1,020句の連作川柳アンソロジー。
20句の連作・群作川柳作品を川柳作家毎に掲載。
選評には小池正博(「川柳スパイラル」編集発行人。書肆侃侃房『はじめまして現代川柳』編著など)。

出典:『川柳EXPO』Amazon販売ページ(https://qr.paps.jp/TmThe)

この記事では、X(旧Twitter)で投稿した感想を随時反映していきます。


止め方は習わなかった非常ベル | 徳道かづみ

ボタンを押すだけで、世界は日常から非日常に変貌する。
赤い色が鮮やかに神経に障る。
「異常を察知したら躊躇なくボタンを押しなさい」と、子どもの頃に教えられた通りにやってみただけなのに、彼/彼女はもうそれきり、二度とは戻れない。

食パンの幼虫ですと差し出され | おかもとかも

物体は有用であるという点において存在の意味を持つ。
「食パンの幼虫」は意味を持つ前の、未分化な存在だ。
この句は人間が何かを受容することの境界を示している。
受容する/しない/される/されない、の、いずれでもあり、いずれでもなく。

ユマ・サーマンに委ねる事態 | 南雲ゆゆ

『パルプ・フィクション』や『キル・ビル』で知られるユマ・サーマン。
川柳には時勢的な表現がよく見られるが、彼女が出演した作品に傾倒していた私にとっては、句に示されているのがどのような事態であるかは明白だ。
頭韻も気持ちよくキマっている。

理科室の「りか」しか通話できません | 小沢史

幼い頃の記憶に残っている、受話器越しのリカちゃんの声。
現在でも「03-3604-2000」とダイヤルすれば、リカちゃんにつながるらしい。
一方で、あらかじめ不通とされた者たちのことをも、この句は表明している。

はじめから猫なで声の肩甲骨 | 中山奈々

言葉には凝縮された意味があり、ふと綻びを発見したときにその意味が展開される。
「なで肩」に「猫」が含まれていることは多くの人が知っている。
折り畳み椅子が椅子になるようなギミックが楽しい一句。

正義とは脱走防止柵の幅 | 沼谷香澄

「他人にルールを守らせるというルールを定めることはできない」と、そんなことを言った哲学者がいるはずだが、誰だったか忘れてしまった。
人間の定めたルールも、うさぎにとっては柵の幅の話でしかない。
正義も悪も、天然には存在しない概念なのだ。

包丁の潜水艦を捌きけり | 笛地静恵

「松本零士追悼」としての二次創作的な句。
語の選び方、古語を用いた表現など、計算が行き届いた技巧が施され、精緻な表現を実現する作者のヴィジョンの解像度の高さに驚かされる。
川柳が精巧なミニチュアに成り得るとは思っていなかった。

立神へ真っ直ぐ走る月の道 | 茉莉亜まり

月と桃には神仙のイメージがある。
奄美大島といえば、「ユタ」と呼ばれるシャーマンが有名だが、この句は彼岸と此岸がつながる瞬間、この世ならぬ存在が顕現する場面を活写した。
マジでヤバイのである。

消しかすを 食べても食べても ろくでなし | 伊吹一

友人が昔作ったラップのリリックに「先輩ブルったときからろくでなし」というパンチラインがあり、30年経った今でもよく覚えている。
消しかすにはブルースがある。
面白みと哀しみは近い場所にある。

洋梨と訳した人のギャグセンス | 雪上牡丹餅

「いや、ギャグじゃねえし」と、とりあえずつっこんではみたものの、読み手のギャグセンスをも問われる一句。
ハッキリ書くが、この作者の作る句が好きだ。
好みである。

竹輪から穴は墜落し続ける | 成瀬悠

「穴が墜落する」だけでも事件であるところを、「墜落し続ける」穴は、読者から通常の、日常の感覚を奪う。
映像アート作品を鑑賞しているかのような気分にさせられる、言語表現の限界を突破した句。

牛肉がパックの中で生き返る | 森砂季

あるはずがないことなのに、「あるある」とつい共感を持ってしまう。
『「あるある」寄りの「ないない」』ネタだ。
その「ある」と「ない」との距離は途轍もなく遠い、のだろう。

おそろいの静穏だった街と人 | スズキ皐月

よいではないか「おそろいの静穏」。
よいではないか「街と人」。
行きつけの美術館の常設展で観るお気に入りの絵画のように、キマっているのである。
お気に入り、「おきに」、なのである。

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