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【春秋一話 11月】 「映画を早送りで観る」時代とは

2022年11月21日第7171号

 いつ頃からだろうか、録画したテレビドラマを観るときにコマーシャルを飛ばして観るようになっている。放映している時間帯はもちろん飛ばすことはできないが、むしろ放送時間に観ることができても、録画しておいて後で観ることの方が多くなっている。
 最近のレコーダーはDVDに加えハードディスクドライブを搭載している機種が主流になっているが、このハードディスクが搭載されてからコマーシャルを飛ばすという観方をするようになった気がする。
 最近のテレビによってはコマーシャルの時間を飛ばすボタンがリモコンに付いている機種もあり、コマーシャルを飛ばして観る人が多くなっているのだろう。
 自分自身のテレビの観方の変化を感じていたところ、最近、若者の行動として映画やテレビドラマを早送りで観るという話を聞くようになった。若者世代が、ネットフリックスやアマゾンプライムといった動画視聴チャネルを観ることが多くなり、テレビを見なくなったという話とともに、その動画の視聴方法も早送りで観るということだ。少し前には「ファスト映画」という一般の映画を10分程度に短縮した動画サイトが話題になり、その投稿者が著作権法違反で逮捕されるという報道もあった。
 映画はもちろんのこと、テレビドラマもストーリーを楽しむものであり、それを短縮して鑑賞するというのはなぜなのか興味を持ち、稲田豊史氏というライターの著書「映画を早送りで観る人たち(光文社新書)」を読んだ。
 この書籍では早送りで視聴することを外的な要因と内的な要因から考察している。外的要因としては、ネットフリックスなど映画やドラマを提供する動画サイトの登場とサブスクリプション契約による見放題で提供される豊富さというよりも多すぎるほどのコンテンツの存在がある。かつてのテレビでは放映時間が重なって諦めていた視聴環境がいつでも視聴することができるようになっているということである。
 そして、早送り視聴に関するアンケートによると、早送り視聴をするのは若者が多く、その理由は「忙しい中、友達との話題についていくために早送りで観る」という回答が多かったという。LINEなどのSNSにより常時接続という習慣が当たり前となり、そのために効率的に視聴する「タイパ」と呼ばれるタイム・パフォーマンスが重視されている。
 極端な場合には、連続ドラマの初回を観た後に、先に最終回を観て結末を知り、その途中の回は観るのを省略するということもあるという。仲間との話題に乗ることが昔とは比較にならないほど重要になっていることが内的要因だと解説している。
 新たな技術が人類の文化生活を大きく変えてきていることは歴史が示すとおりである。
 そのことにより労働時間が短縮され、余暇時間が増加し、新たな産業が生まれ、現在は圧倒的なサービス産業の時代となっている。インターネットの普及がそれに拍車をかけ、さらに新型コロナ感染による生活の変化も大きく影響しているだろう。
 人々の生活習慣が変化し、サービスを提供する側もそれに合わせて変化せざるを得ない。それが常に繰り返され、変化も早くなっている時代であるが、現代の若者のタイパと呼ばれる習慣、そこまでパフォーマンスを重視して効率化し、その結果として得られるものとは何だろうか。
 そのようなことを言うこと自体、筆者自身が今の時代に乗り遅れているということだろうか。
(多摩の翡翠)

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