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どうやったってうまくいかない姉と私


姉と私は水と油だ。決して交わらない。
一時、交わったかのような錯覚を覚えた期間があった。
でも、結局それは幻想で、
また元へと戻ったのだ。元に戻っただけ。ただそれだけのこと。


早くいなくなればいいのに!


とにかく喧嘩ばかりしていた姉と私。
少し仲良くなったかと思えば、すぐに喧嘩に発展する。
年は1つしか違わないのに偉そうにするし、何かにつけ馬鹿にしてくるし、私にとって姉とは、激しく有害な存在であった。


それは中学にあがった頃。
姉が「私はピアノがうまいから16歳になったら留学するの」と言い出した。

なんだその嬉しい知らせは!!
私は小躍りした。姉がいなくなる!この家から消えてなくなる!

その日をとにかく励みに日々生きていたかもしれない。
本当に待ち遠しかったんだ。


ところが。


いざ姉が16歳になっても、家にいる。
私はてっきり誕生日のその日にいなくなるもんだとばかり思っていたから
それはそれはガッカリした。

でもそのうち、行くんだろうって思ってた。

だけど、待てど暮らせど、姉にそんなそぶりはない。

ある時、聞いた。
「ねぇ・・・いつまでこの家にいるの?留学はいつ?いつになったらいなくなるの?」

姉はどんな顔をしただろう。全く記憶にはないが。
そして私にどんな言い訳をしたのかも覚えていない。

ただ、強がって、そのうち行くというようなことを言ったと思う。

早く行きなよ!なんでまだいるの!!と、怒鳴ったような記憶がある。

本当に仲が悪かったし、嫌いだったし、でもたまに仲が良い時は不思議と楽しかった。

私が家を出て母が病気になって少しずつとけてきた


母が癌になって、面倒なお見舞いにたまーに行くと、姉がいることがあった。
当時私も姉も煙草を吸っていて、一緒に喫煙所で煙草を吸いながら思い出話をした。
この頃にはもうお互い大人になっていたから、喧嘩することもなく、かと言って本音を出すこともなく、淡々と時間は流れていった。

とは言え面倒なのに変わりはなく、数えるほどしかお見舞いには行かなかった。

母が死に、急速に近づいていく二人の仲


母が死んだ。私は看取らなかった。自分の生活を優先した結果だ。
当時一人暮らしだった私は、私の稼ぎで生活していた。


姉はなんやかんやと親から援助してもらっていたようだが、
私は16歳で嫁いで家を出て行ってから、親にお金をお願いしたことは一度もないし、あれから30年近く経つ今でもそれは記録更新している。


そんな、仕事を優先した私のことを母の実姉は罵ったが、自分の旦那だって仕事で来てないじゃん、という思いしかわかなかった。


母に、母らしいことなんて、何もしてもらってないし。
どうしてこういう時だけ、大変そうな顔をして集まらないといけないの?
そこが一番モヤモヤしたところだった。


それから姉と急速に近づいて行った。理由は覚えていない。
母を失った喪失感みたいなものから姉が私を代わりに家族にしたかったのかもしれないと、今は思う。

楽しい時間が過ぎた。
一緒に待ち合わせて池袋に行ったり、姉の家に泊まったり、そんな姉妹らしい時間が流れた。


別れは突然に


それから何年か経ち、また少しずつ姉と私にズレが生じてきた。

姉は本当にエキセントリックな人で、同じマンションの住人と不倫をしたり、うんち食べたり、AVに出たり、ヌードモデルをやったり、
かと思えば毎日神社に通ってそれを何千日だか続けるとか言い出したり。

ちょっと普通の人ではついていけないところがあって。

私も普通ではないと思うから、そこそこ話題についていったけど、
ある時つい口をすべらしてしまう。
あれはもしかしたら自由に好きな事をしていた姉に嫉妬をしていたのかもしれないな。

その一言に、あからさまに嫌な顔をした姉。
あ、私の意地悪な気持ちが伝わったな、と思った。

姉は姉なりに自分はまともであると思っている。
自分の信念みたいなものは曲げていないというか、純潔だと思っている。
そこを踏みにじられたような顔をしていた。

それから少しずつ、疎遠になっていき。

ある時姉から連絡が来た。
私のリサイタルをやるので、来ない?というものだった。

「私のリサイタル」と聞いて何を想像するだろうか?
私はこう想像した。

姉が1人でステージに立ち、歌を歌うのだと。

姉の歌声はとても好きだったので喜んで行った。
結構遠かったけど、頑張って行ったんだよね。


でも蓋を開けてみたら、バンドだった。
それも姉はキーボード担当で、メインボーカルは姉ではなく、
たまに歌う姉の声はマイクの不調で全然聞こえてこなかった。


ガッカリ以外の何物でもなかった。


私は姉の歌声が大好きで、それが聴きたかったと伝えた。
マイクの不調が残念だったと伝えた。
私が伝えたかったのは「姉の声が大好き」という部分だったのだが、
姉に届いたのは「ガッカリ」の方だった。


どれだけ話しても平行線で、姉に私の声は届かず、
それきり姉とは会っていない。


ただ、昔に戻っただけ


結局姉とは合わなかったのだ。相容れない別の生き物なのだ。
どんなにそれらしく振舞っても、近づこうとしても、
所詮私たちは水と油なのだ。

もう会うこともないだろうという気がしている。

どちらかが棺桶に入った時に会うかもしれないが、
それももしかするとないかもしれない。


そんな姉と私です。
読んでくれてありがとう

トメちゃん

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