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化粧品成分の浸透

みなさんは、化粧品成分の浸透ってどういうものか知っていますか?

成分の中には表皮や真皮に作用するものがあるんですが、成分の特性によって浸透のしやすさが違うのを知っていますか?

前提として、法律上「化粧品は角層までしか浸透しない」といわないといけないんですが、実はそうじゃないこと。
そして、特殊な浸透をする成分を例に挙げて説明したいと思います。


1.肌の浸透経路

肌は大きく分けて表皮真皮があります。

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表皮には角層と呼ばれる脂溶性(油の性質が高い)の層があるんですが、角層には表皮角化細胞と呼ばれる細胞が並んでいて、さらに細胞と細胞の間に細胞間脂質と呼ばれる脂質があります。
イメージでいうとレンガとセメントの関係ですね。

その中で、肌の浸透ルートは実は3つあるんです。

それがこちら。

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まず①は「細胞と細胞の間を通るルート」。
次に②が「細胞を直通する経路」。
最後の③が「毛穴や汗腺を通る経路」。

成分が浸透するのは基本的に①であり、③はよほどのことがない限りルートとしては考えません。

③が考慮されない理由は、肌の表面にある毛穴や汗腺の穴って全体の約0.1%だからです。なので、成分を浸透させたい場合は基本99.9%占めている肌状態の浸透条件を考えることになります。

これが浸透の基本になります。

2.成分が浸透する条件

肌の浸透ルートがわかったら次は「成分がどうやったら浸透するのか」です。

化粧品にはいろんな成分が溢れていますが、実は全部が浸透するわけではありません。モノによっては肌の奥である真皮まで行くけど、場合によっては肌の最外層である角層ですら通らない場合があります。

とはいえ、どの成分も角層で作用するモノばかりではありません。
全部が全部浸透しなくて良いのですが、真皮で作用するのに角層にとどまってしまっては配合された成分が報われません。
では、浸透するにはどのような条件が必要なのでしょうか

一番は浸透性の実験をして確認することなんですが、ある程度予測は必要なので成分の以下の特性を確認します。

①分子量:約500以下
②脂水分配係数:1~4(油や水の程度を表す指標)
③融点:200℃以下(成分が溶ける温度)

ちょっと難しくなってきましたね。

要は、「成分が小さく、ほどよく脂で、溶ける温度が高くない」ってことが重要なんです!

勿論肌の状態によっては条件が変わってくるんですが、基本的に成分が浸透しやすいかどうかはこの条件を見ていきます。
(例:アトピー患者は分子量が700くらいまで入りやすいのでデリケート)

ただ、成分を表皮まで浸透させたいのに「②の脂水分配係数が-3(水溶性)」という数値だったら脂溶性(角層)から水溶性(成分)がはじかれてしまうので、肌どころか角層すら一切浸透しないのですが、成分を特殊なカプセルにいれてあげることで外側が水溶性じゃなくなるので肌に通りやすくすることが出来ます(リポソームなど)

逆に刺激の原因になるような成分は浸透をさせず、肌の上に残るようにカプセル化してあげる場合もあります。(例:紫外線吸収剤)

必ずしも浸透させたいからだけではなく、浸透させないように制御できるのは面白いですよね。

3.特殊な成分例(ビタミンA誘導体)

1と2の内容を踏まえて、「はい!終わり!」でも十分よかったのですが、
1と2の話を裏切るような特殊な成分があったので推測も含めてお話ししたいと思います。

最近人気のレチノールがあると思うんですが、その中でもよく化粧品で使用されているパルミチン酸レチノールについてお話をしたいと思います。

パルミチン酸レチノールは、
ターンオーバーの調整(表皮全体の角化細胞の分化増殖を制御する働き
ハリを与える(表皮のヒアルロン酸や真皮のコラーゲンを制御)
の機能があります。
このことから、パルミチン酸レチノールは肌全体にメカニズムを持っていることになります。

ちなみに構造はこんな感じです。

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化学を専攻していた方にとってはこの構造すらも興味深いかもしれませんが細かい話をすると脱線してしまうので、ここで着目するのは先ほど話した浸透の条件である分子量、脂水分配係数、融点だけにしましょう。
成分が小さく、ほどよく脂で、溶ける温度が高くないか

パルミチン酸レチノールの性質は、

①分子量:524.86⇒約500くらいなのでクリア
②脂水分配係数:13.6⇒1~4からおおきな逸脱。脂溶性たかすぎ…
③融点:28.5 °C⇒200℃以下なのでクリア

どうでしょう?
このデータから推測すると、
パルミチン酸レチノール分子量と融点はクリアしているので、まったく入らないわけではないが、脂溶性が高すぎて角層以降浸透しにくい
という結論になります。

角層まではいるという推測をしたのは、1で説明した角層が脂溶性だからと、パルミチン酸レチノールが脂溶性だからはじかれることはないためです。
(他にも同じような性質の成分が角層にとどまっていたからというのもありますが…)

では、パルミチン酸レチノールは角層までで良いのかというと…

先ほど説明したパルミチン酸レチノールの効能を思い出してください。
パルミチン酸レチノールは肌全体に作用するという話をしました。

じゃあ効かないじゃん!!と、今までの浸透性(経皮吸収)の研究であればいわれていたのかもしれませんが、
でも待ってください!

パルミチン酸レチノールって塗り続けるとA反応がありますよね?

A反応は少なくとも表皮にある角化細胞に作用しなければ成立しません。

ここからが推測を含めたカラクリの話になります(やっと本題…)


皆さん、浸透のルートをもう一度思い出してください。

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このときに、私は「③毛穴や汗腺を通る経路はよほどのことがない限り除外」っていいましたよね。
(1でも太線で強調してます)

今まで化粧品研究では③は除外として考えられていたらしいんですが、実はパルミチン酸レチノールのような脂溶性が高すぎる成分については、③の毛穴や汗腺が大事な浸透ルートになるんです。

その裏付けがニキビ治療薬である「ディフェリンゲル」にありました。

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ディフェリンゲルの有効成分はアダパレンといわれるアダマンチル骨格(化学構造のこと)を持った分子量412.52のものなんですが、
脂水分配係数がパルミチン酸レチノールと同じくすごく高いんですね(8-9くらい)

なので、ADME(体内に薬物が入る課程と排出を見た学問)と呼ばれる薬学の分野の中で肌の薬物の皮膚分布を見ていくと、
殆どの成分は角層にとどまっていたんですが、
一部、毛包から表皮や真皮に浸透していることが確認されていました。

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毛包などは真皮まで穴が開いているようなものなので、このルートであれば
角層を通過出来なくても問題なく表皮や真皮まで通過できるわけです。


1~3をまとめると、

浸透のメインルートは細胞と細胞の間のルートであり、
成分が浸透するためにはいくつもの条件をクリアする必要がある
角層以降浸透しない成分も例外として毛包ルートが重要になる場合がある

になります。

かなりマニアックな話になっていますが、
面白いなと少しでも思っていただけたら幸いです。


追記
この記事を見て、「有料にしないんですか」と質問をいただきました。
今のところ有料にする予定はないんですが、もし良いなと思ったら購入ボタンを押していただけると励みになります。
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□参考文献
・Kenneth A. Walters著、Dermatological and Transdermal Formulations
・薬剤学Vol.63(1)、34-45、No.1(2003) 
・ディフェリンゲル0.1%申請資料


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