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サヨナラ シャンパーニュ③

待ちかねたギムレットが2杯同時に差し出された。
「マスタータカサキ恩にきるよ」彼は言った。
「ギムレットはジンをベースにしたカクテルで、ネジ切りのように刺す味わいからそう名付けられた。」とグラスを絵莉の方に寄せた。

「オシャレな知識を持ってるのね」
「お褒めの言葉をありがとう、このお酒に名前があるように、お嬢さんのお名前を教えてくれないか?」
「私の名前はスズハラよ、鈴の原と書いてね」
「下の名前を言ってくれないのはイジワルか警戒心のどっちなんだろね」
「あえて、言うならどっちもよ」
「なるほど、その警戒心ならSNSも本名でやるはずもないな」
「なんでも、検索できちゃう世の中だから油断はならないわ」「お返しにあなたの名前を教えて」

「私の名前はシャンパーニュだ」
「席を外していいかしら?」
「すまない、自分の名前はわけあって言えないんだ、僕の好きなワインの産地の名で許してくれ」
「指名手配犯かなんかしら」
「だとしたら、呑気にバーで飲んでないさ」
「まぁ、いいわ、長く覚えるつもりもないし」
「辛辣な言葉だが助かるね、乾杯しよう」
絵莉は無言でグラスをあげて、シャンパーニュと乾杯をして、ギムレットを口にした。

「確かに、刺すような味だ」
「ねじ切りのように?」絵莉は笑った。
「本物だったら、今ごろ口の中は血だらけだな」シャンパーニュも笑みをこぼした。

「こういう、店はよく一人で来るのかい?」
「そんなに多くないわ」と絵莉は少し間をあけて
「なんなら、一人で来るのは初めてよ」
「その感じだと、女友達ではなさそうだな」
絵莉はギムレットを口にした後
「えぇ、ねじ切りで刺してやりたいぐらいの最低な男よ」
「ほぉ、そのねじ切りがお酒で良かったよ」
絵莉は柔らかい微笑を浮かべていた。

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