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サヨナラ シャンパーニュ ⑨(終)

シャンパーニュ産のワインの残りもグラス二杯となった。
時計の針は23時50分になっていた。
「そろそろ、最終列車の時間も近づいてきたな」シャンパーニュは言った。
「そうね、あなたが最初に告げた通りにいくなら、私もホームに向かわないといけないわ」
「もちろん、紳士は女性との約束は死んでも絶対に破ってはいけない」
「死んだら約束は守れないわ」
「それくらいの覚悟だってことだ」

「その前にこのワインを飲み干さないといけない」絵莉はワイングラスをシャンパーニュの方に向けた。
「残して帰るのは一番の御法度だからな」
シャンパーニュは絵莉と視線を合わせた後ワインを口にした。
「ところで、君はこのワインの味を1,2年では出来ないと言っていたが、おそよ何年ものだと思うんだ?」絵莉はグラスをテーブルにゆっくり下ろした。

「そうね、正解を言って欲しいのなら1984年のワインってところかしら」
「ほう、その根拠は?」
「根拠なんてないわ、直感だもの」
「その直感に称賛を贈ろう」
マスタータカサキとシャンパーニュが呼ぶと、
空になったワインボトルが置かれた。
そこには1984年としっかりと年号が書かれていた。

「私の生まれ年ね」
「君と同じ時間を生きたワインといってもいいだろう」
「確かに、あなたの名に恥じないワインだったわ」
「お褒めの言葉をありがとう」
「ありがとうはこっちのセリフよ」
「うん?どういう意味だい?」
「紳士なら深掘りはしないほうがいいわ」
絵莉は笑って飲んでるのを見て、シャンパーニュもワインを飲んだ。

時計の針は24時ちょうどをさしていた。
「日付も変わってしまったね」
シャンパーニュは言った。
「これで12月11日は終わったわ」
「次に祝ってくれるのはサンタクロースっていうことか」
「大人になってもサンタを信じてる人なんているかしら」
「大人だって、親からしたらいつだって子供であるのは変わらない」
「何をプレゼントしてくれるのかしら」
「恋人かもしれないな」
「よく、車の中で聴いてた。サザンとユーミンはね」
「ドライブにはもってこいの選曲だな」

「サザンに至っては好きすぎて私の名前につけるぐらいだしね」
「いい名前じゃないか」
「まぁ、感謝はしてるわ」
絵莉はシャンパーニュとグラスを乾杯して、一緒にワインを飲んだ。
「本当にサヨナラの時間が近づいてきたな」
「そうね、二度と会うことはないとゆうよりかは会うことが出来ないかしら」
「そうだな、二度目の再開はこちらとしても望んでないな」
「頑張って生きるわ」
「もう、頑張ってるさ、本当に」

絵莉のまぶたはどんどん重くなってゆく
「じゃあ、サヨナラシャンパーニュ」
「サヨナラお嬢さん」
「一つ言い忘れてたけど、最後に買ってくれたおもちゃ、あれ手鏡じゃなくてコンパクトって言うんだからね」
「どっちも同じじゃないか」
「名前が違うから同じじゃないわ」
絵莉とシャンパーニュは笑った

「サヨナラ」絵莉は涙ぐんで言った。
「サヨナラ、いとしのエリー」シャンパーニュは最後にそう言った。
絵莉のまぶたが閉じて、開くとそこにシャンパーニュの姿はなかった。
そこにはグラスが二つとマスターだけだった。
「代金はいりません。鶴の恩返しということになっております。」
「ありがとう、マスタータカサキ」
こちらこそとマスターはうなずいた。

絵莉はバックを取り出して、店のドアを開けると同時にマスターが深々と礼をしていた。
絵莉は恵比寿駅のホームへと向かっていた。
来る前に感じた12月の風も涙を乾かすにはちょうどいいと思った。


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