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友人の話

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2014年9月の記事一覧

第71話 友人の話-結婚祝い

第71話 友人の話-結婚祝い

「霊より人の方が怖い気がします」

ナガセさんは一昨年の春、勤め先を寿退社した。
県内では名の知れた機械部品メーカーだった。

広報で少し責任のある仕事を任され始めた矢先だったので、周囲には惜しむ声もあった。

「先輩の女性陣からは特に」

せっかく育ててやったのに、ここで辞めるのか。
責任のある地位を女性になかなか回してもらえないのは、あなたのような人がいるから。
そう責める人もいた。

とはい

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第70話 友人の話-猫の恩返し

第70話 友人の話-猫の恩返し

「動物に助けられたこともあるで」

ヒガシノくんは獣医師をしている。
現在は住宅街に医院を構えているが、駆け出しのころは勤務医として辛い経験も積んだ。

「助けられたときは嬉しいんやけど、そうでないこともあるやろ。ときには殺さなあかんことも」

獣医師は、いわゆる安楽死や殺処分を頼まれることがある。
病気やひどいケガで助からない命なら、苦痛を取り除くため、と割り切れるが、そうでないときは辛い。

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第69話 友人の話-留守電

第69話 友人の話-留守電

「自分ではどうしようもないこと、ってやっぱり怖いですね」

カキヌマさんは関西では有名な女子大に通っていた。
実家は広島なので、合格と同時に、ワンルームマンションを借りた。

初めてのひとり暮らしだ。
昼間は大学、夜は外食店のアルバイト、と楽しく忙しく日々が過ぎていった。

そんな中、ひとつだけ気になることがあった。
奇妙な留守電が入るようになったのだ。

「あなたも……でしょ?」

女性の声でそ

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第68話 友人の話-クワガタ

第68話 友人の話-クワガタ

クボタくんは霊の存在を信じるという。

「見たことはないねんけど」

小学生のころ、クボタくんはクワガタ捕りにはまっていた。
住んでいた街は、大阪北部の住宅街だが、街の北側に連なる里山に入れば、カブト虫やクワガタが捕れた。

「早起きが辛いねん」

それでもクボタくんは学校が夏休みに入ると、友人と連れだって毎日のように山へ行き、クワガタを捕った。

ただ、それだけ頑張っても、いつもたくさん捕れるわ

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第67話 友人の話-写真館

第67話 友人の話-写真館

ワサカくんは写真館を経営している。
祖父の代からある古いもので、彼は3代目だ。

「そりゃ、写ることはあるで」

いわゆる心霊写真である。
スタジオで撮ったお見合い写真や家族写真に、「あり得ないもの」が写ることは、そう珍しいことではないという。

「人の顔とか、腕とか……まあ、フォトショップで消すだけやけど」

変なものが写りましたよ、と告げるわけにもいかない。
そこはデジタル時代のいいところで、

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第66話 友人の話-顔

第66話 友人の話-顔

サノハラくんは食品会社の営業マンをしている。
営業一筋12年というベテランで、成績もいい。

地域の営業所では、ほぼ毎年トップの成績を収めてきた。

ある年、その風向きが変わった。
ライバル会社からやってきたタムラくんのせいだった。

6歳年下の好青年で、社内の女性陣からもウケがいい。
親父ギャグでどうにかコミュニケーションを図っているサノハラくんとは大違いだ。

さわやかなルックスのおかげか、新

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第65話 友人の話-万引き

第65話 友人の話-万引き

ハナキくんはコンビニの店長をしている。
地主の親がチェーンの営業マンに勧められて始めた店だ。

「息子の仕事場を作りたかったんでしょうね」

サラリーマンを1年で辞め、以来、アラフォーまでバイトや派遣で食いつないできた。
そんな息子の行く末を考えて、始めてくれた店だという。

いくらかでも黒字ならよし。
ハナキくんもそんな気楽な気持ちだったが、いざふたを開けてみると、開店からひどい赤字が続いた。

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