第67話 友人の話-写真館
ワサカくんは写真館を経営している。
祖父の代からある古いもので、彼は3代目だ。
「そりゃ、写ることはあるで」
いわゆる心霊写真である。
スタジオで撮ったお見合い写真や家族写真に、「あり得ないもの」が写ることは、そう珍しいことではないという。
「人の顔とか、腕とか……まあ、フォトショップで消すだけやけど」
変なものが写りましたよ、と告げるわけにもいかない。
そこはデジタル時代のいいところで、パソコンに取り込んでしまえば、どうとでもなる。
お祖父さんの時代にもあったが、当時は筆やエアブラシで修正していたから、大変だったそうだ。
「また写ってしもたわ」
「ああ、あの一家は必ずやね」
祖父と父のそんな会話を聞いた覚えもある。
だからワサカくんも、心霊写真を怖いと思ったことはなかった。
ただ、消す手間がかかる面倒なもの、と考えていた。
あるとき、女性のお見合い写真を撮った。
「いわゆるアラサーなんやけど、なんや、ちょっと病んでる感じでな」
一番小さなサイズを選んだのに、レンタルドレスの肩が落ちそうに細い。
肌も青白く、目の下にはくまが濃い。
「余命が少ないから、せめて結婚してから死にたい、っちゅうことかな、なんて思ったほどやった」
とはいえ、特にそんな説明があったわけではない。
いつも通りワサカくんは数カットの写真を撮り、修正するつもりでパソコンの画面に開いた。
女性の背後に、いるはずのないものが写っていた。
写真の女性を呪うように、怖い顔をして立っている女だ。
写り込む位置に違いはあるものの、すべての写真にその女がいた。
怖い、という感覚は小さかった。
ワサカくんはむしろ、憤りを覚えた。
ただでさえ体調が悪そうなあの女性客に取り憑くなんて、と。
「いうても、うちに来てくれたお客様やからな」
あまりに腹が立ったので、問題の女が一番はっきり写っている写真をプリントアウトすると、懇意にしている寺に持ち込んだ。
祖父の代からの付き合いがある密教系の寺院だ。
それなりに高額のお布施を請求されるが、ややこしそうな写真が撮れたときには、祖父も父もそこに持ち込んで炊きあげてもらっていた。
寺に行ってスッキリしたものの、困ったことが起きた。
女性客が写真を受け取りにこないのだ。
うまく祓えず、なにかよからぬことでも起きたのか?
心配していると、3か月ほどたって、ようやくその女性が現れた。
聞けば、妹が急病で倒れ、その対応に追われていたという。
「私よりずっと元気だったのに」
事情を説明する彼女の顔は、3か月前とは見違えるように、はつらつと健康的だった。
「忙しくしていると、かえって体調がいいみたいです」
ワサカくんは悩んでいる。
お見合い写真に写り込んでいたのは、おそらく妹さんだったのだろう。
そう思って、元データをあらためて見直してみると、写真を撮りに来た女性と顔立ちが似ていた。
姉妹の間で、どんないきさつがあったのかはわからないが、呪い呪われるようななにかがあったのだ。
それを炊きあげてしまったから、呪いが返ったのだ。
「お炊きあげでそんなことになるとは、親父も教えてくれんかったもんなぁ」
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