冬源郷(2/4)[Story+image]
子どもたちのところに行くと、元少年はおそるおそる、ここはどこかと尋ねました。
すると、はじめに口を開いた子どもが村の名前を云い、その後ろにいた少し大きな子どもが、郡の名前と県の名前を云いました。村の名前も郡の名前も聞いたことがないものでしたが、県は豪雪地帯で知られたところでした。元少年のところからは、三つくらいの県を通過しないと行けません。元少年は、時間にすれば二三時間歩いただけですが、なんと三百キロくらい移動していたのです!
「おじさんは、トウゲンキョウというところを探しているんだけど……」
元少年は、おずおずと尋ねてみました。ふつうなら、ドン引きされそうな質問でしたが、何しろ空間を飛び越えたのですから、常識なんかとっくに越えています。
「トウゲンキョウは、まだこの先だよ」
そう教えてくれたのは前に立っている小さい子ども。背後にいた大きな子どもが、こう付け加えてくれました。
「『モモ』のトウゲンキョウじゃないよ。この先にあるのは『フユ』のほうだよ」
この先にあるのは、「桃」源郷ではなく「冬」源郷だというのです。
「いいところだけど、さみしいよ」と、小さい子。
「桃源郷は一年中、春だけど、冬源郷はずっと冬なんだ。争いはないし、皆、やさしいけど、ほかには何もないよ」と、大きな子。
「だから、さみしいところだと云ったじゃないか!」
前の子が振り返って、後ろの子に口をとんがらせました。
元少年は、背負っていたリュックから板チョコを取り出しました。非常食として持ってきたものです。言葉でお礼を云うだけでは足りないと思ったのです。子どもたちは、まるで貧しかった時代の子どもたちのように目を輝かせて、桃源郷、いや冬源郷の入り口まで案内すると云ってくれました。
「それは悪いよ」と遠慮すると、子どもたちはヒューと口笛を吹きました。すると時代劇のような音がして、なんとウマが数頭やってきたではありませんか。
「このウマに乗れば、あっという間だよ。歩くと日が暮れるよ」
つづく
※注意! 馬の脚を決して数えないこと。
AIは馬が苦手のようでした。しばらく見守ってあげましょう~
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