[暮らしっ句]麦 秋1[俳句鑑賞]
麥秋を一直線に旅心 川端実
麦畑とは書いてありませんが、麦秋という季語を選んでいる以上、意識はされていたと思います。麦秋に出かけたくなる人は、たぶん黄金色の麦畑を知ってる人。そして行き先は観光地じゃなく、むしろ何もない場所、知らない土地… わたしも思わず疼きました。ただ、冒険に出たいというより、「あの頃のあの場所」を思い浮かべているというあたりが、歳なのかなあ。
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麦秋の続く限りの風の音 河野美奇
こちらは実景を前にした句でしょう。しかし、描写が「風」の一語!
他に何もない…じゃなくて、ほかに何も要らない!
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麦秋や あらぬ方向き 道しるべ 久保恵子
「あれ、こんな道あったっけ? それにその行く先、聞いたことがない……」
一面の麦畑の中、どうやら不思議な世界の入口が現れたようです。『アリス』ではウサギの穴。『ポッター』では駅のホーム。作者の前には、麦畑のユーモラスな道しるべ!
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麦秋や 好きなところに停まるバス 谷口みちる
地方では、希望した場所に降ろしてくれるバスがあります。常識的に考えればそのことだと思われますが、文字だけを見れば、好きなところを走って好きなところに停まるバス…とも読めるわけで、それだけでファンタジー。
バスだって「おまかせメニュー」があってもよさそうなもの。若い頃は、行ってみたい場所がたくさんありましたが、それが思いつかなくなったり、ワクワクしなくなったら「おまかせ」もいいかも。
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麦秋や ロバの匂ひの石畳 田中重子
ヨーロッパの実景を詠んだもの、と受け止めれば、行ったことのない者にとっては、テレビと同じになりますが、身近なところにも、そんな穴場がある… と思えば、それもまたファンタジー。
以前、プチ探検仲間がいたんですが、観光地じゃないところでも「気配」のするところはあって、歩いてみると実際にあるんですよ。おもしろい場所が。ああいうプチ探検は一人では出来ませんね。一人だと世間の日常に負けてしまう~
絵本にするなら、第一章は、空想散歩を愉しむ人と出会うところから。 そんな人、どうやったらわかる? 普通の人が行かない場所で、通り過ぎないで、少し留まっている人とか~
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麦秋の水郷 棹を休めつつ 堀井浮堂
麦秋や 櫂をとめても舟進む 山田六花
麦畑と水郷、関係がないどころか、一方は湿地を嫌いますから、相反するようですが、わたしの記憶でも同居しています。滋賀の湖東がまさにそうでした。一面の麦畑を過ぎて、次の場面が水郷地帯。バイクの時間だと1時間もないくらい? 記憶だと次の頁という感じ。
イメージとしては、麦畑に誘われて地平線を目指して一直線。その彼方にやさしい水郷が広がっていた……
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麦秋や 見果てぬ夢はポケットに 後藤志づ
もし広い麦畑の中に足を踏み入れたら、行けども行けども麦畑。横断も出来ないわけで、別世界への旅立ちは「未遂」です。でも、それは失敗ではなく「見果てぬ夢」だという。「未遂」だらけの者としては実にうれしい御言葉。実績も貯金もないけど、ポケットには「見果てぬ夢」がいっぱい~
ただ、放置すると干からびそう。時々、取り出して水をあげないと!
出典 俳誌のサロン 歳時記 麦秋
歳時記 麦秋
ttp://www.haisi.com/saijiki/bakushu1.htm
見出し画像は、nanoha_nさんの作品です。
ありがとうございました。