見出し画像

[近未来戦記]Gardens soldier[AI絵本]

 その星には、「ガーデン部隊」なる特殊な兵科が存在した。戦争で被害を受けた庭園の植物をすみやかに救護するのが職務である。なにしろ草花は根が露出したり水が涸れると二日も経てば絶望的なことになる。応急措置が必要なのだ。
 ただ、この星の感覚からすれば、植物を救うために人間が危険な目に遭う? 多額の資金が必要? そんなこと検討されるどころか議題にもならない。まったくナンセンスな話だ。
 その星でも、少し前まではそうだった。「ガーデン兵」の制度が出来たのには二つの理由があったという。
 まず上の都合。上とは政府や国際機関だ。
 彼らはかねてより持続的成長を掲げ、環境保護活動を奨励していたが、環境保護団体の活動が彼らの思惑以上に活発になり、人権ならぬ植物権まで要求しはじめたのだ。要するに、動物愛護法の植物版である。
 むろん、すべての植物の権利を認めたら人間の活動がままならなくなる。そこで、さしあたってはガーデニングの植物に限定されることになった。
 植物園などの公共施設、および個人の庭の植物、室内の観葉植物に関しては、ペット並みの保護義務が課せられることになったのである。勝手に処分することはもちろんのこと、粗略な扱いで大きなダメージを与えることも処罰の対象となった。
 この植物愛護の意識は、さらに意外な方面に波及した。戦争中であっても対象植物は保護すべきだという世論が高まったのだ。
 戦争中に植物を保護する? 軍部からすれば、何を考えているんだ! という話だが、多くの市民はこう考えた。

「戦争中に植物を保護するのがバカげている?
 あのね、戦争のどこが正気なのよ!」

 しかし、いつの時代も政治家はしたたかだ。彼らは、戦争条約の中に植物保護の条項を盛り込んだのだ。すなわち、ガーデンを破壊した軍には、その早急な復旧を義務づけた。その任務にあたるのが「ガーデン部隊」「ガーデン兵」というわけである。

 しかし、「ガーデン兵」のなり手がなければどうにもならない。戦争の最前線で、植物の世話をするなどという危険極まりない職務を誰が引き受けるというのか?
 実際、軍部は首を縦に振らなかった。貴重な兵士をそんなことで消耗したくなかったからだ。そこで政治家は「ガーデン兵」については、志願兵をあてることにした。
 おかしな話である。プロの軍人ですら危険すぎて断った任務を、志願した俄(にわか)兵士にやらせる? 道理も何もあったものではない。

 ところが、志願者は現れた。「ガーデン兵」の募集枠は期限を待つことなく埋まった。
 戦争が始まると、案の定「ガーデン部隊」から多数の死傷者が出たが、補充にはまったく事欠かなかったという。

 ガーデン兵に志願した者の証言がわずかに遺されている。

「国家のためとか、未来のためとか、そんな宣伝文句に命を賭ける気にはなれなかったんです。でも、なんだかんだ云って、我々、平民は戦争に狩り出されます。
 今の戦争の生存率は70%とされていますが、5年後の生存者はその10分の1。なぜなら、生存者の大半は重傷者だから。
 ガーデン兵はもっと苛酷ですが、どうせ助からないのなら、下手な作り話に乗せられて死ぬよりも、目の前の花のために死んだ方がマシだと……」

 その星のガーデン兵のことを聞いたとき、この星にかつてあったジバク隊のことが思い浮かんだが、動機はまるで違っていた。その星では、国家や国際機関への信頼がどうしようもないほどに失墜していたのだ。

 ちなみに「ガーデン部隊」、戦後、廃止された。
 全員、戦死となれば、制度そのものを廃止するしかなかった。記録もすべて焼けてしまい、ほとんど遺っていないという。そんな戯言、誰も信じていないが……。

 ただ、終戦直後の写真は多数残っているわけで、そこにはみずみずしいガーデンがしっかりと写っていている。焼け野原と化した戦場のあちこちに、緑や花があるというのは奇跡としか云いようがないが、それが彼ら彼女ら「ガーデン兵」が確かに存在していた証、生き続ける墓標……。

この記事が参加している募集

#宇宙SF

6,043件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?