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フィンランド・イギリス・アメリカ教育の成功の秘密(3)

シリーズ第3弾アメリカの教育編です。

アメリカには仕事で年に2,3回行っています。短期留学の引率、長期留学の視察、そして東西両海岸の名門大学視察のツアーにも参加したことがあります。カリフォルニアの公立私立両方にもたくさん視察に行って、校長先生をはじめとした多くの先生方とも話をしたことがあるので、アメリカの教育の光と影もある程度理解しているつもりです。

そんな自分が一番注目している学校はカリフォルニア州サンディエゴにあるHigh Tech Highという学校です。もしお時間がありましたら下記の投稿をご覧ください。

本書ではアメリカの学校の具体的な取り組みや事例というよりは、アメリカの教育史や教育の現状に焦点を当てています。

まず、20世紀初頭(1900年代初め)はアメリカの高校生の在籍率は同年齢比の15%程度で、さらに卒業できるのは1/3程度だったとのことです。限られた子供のみが教育を受けられ、さらにその中でも競争が厳しかったとのことです。

1960年代になると、アメリカは戦後一人勝ち状態で世界の金の70%以上を保有し、その豊かさから来るリベラルな風潮に流されて、国民には驕りと精神的弛緩が蔓延していきます。

このリベラルな社会的潮流は、過去営々と築き上げてきた健全な古き良きアメリカ社会に陰りをもたらします。極端な権利主張、ヒッピー文化、麻薬や暴力、フリーセックス、離婚の増加、家庭崩壊などの状況が起こり、さらにはベトナム反戦運動などの社会情勢も加わり、学園紛争、ウーマンリブ運動、人種平等運動などの「反体制、反伝統、反文化」などの潮流が激しくなっていきました。

このような社会的状況は、学校教育にも大きな影響を及ぼし、学校内での麻薬や暴力や教師への犯行などの問題を生み、学校規律の乱れが顕著になっていきました。

そんな学校教育の荒廃から脱却をするために1970年代になると、学校教育立て直しの運動が始まっていきます。その原点とされているのは「父母の草の根運動」と言われているものです。学校における規律を取り戻すために多くの父母が立ち上がり、運動を起こしていったのでした。

そしてその後教育の立て直しの主権が以下のように国(大統領)に移行していきます。

①レーガン大統領

1983年に「危機に立つ国家(Nation at risk)」を発表し、とりわけ中等教育の改革が急務であることを主張しました。

②G. ブッシュ大統領

1990年に「国家教育目標」6目標を宣言し、翌91年には、教育改革の具体的方針を示す「アメリカ2000教育目標」を発表しました。

③クリントン大統領

1994年にブッシュ大統領の6目標に2つを加えた8目標を「ゴールズ2000教育法」として法律化しました。97年には「学校は規則を強化し、*ゼロトレランスの確立を」と全国民に訴え、90年代にはアメリカの学校規律はほぼ完全に正されました。学校に規律を取り戻させたという点においてクリントン大統領の功績は大きいです。

*ゼロトレランス(Zero Tolerance):1990年代アメリカで『割れ窓理論』に依拠して始まった、規律違反を一切許容しない教育方式

④G. W. ブッシュ大統領

2002年にNCLB法(No Child Left Behind:誰も落ちこぼれさせない)を施行しました。州の統一テストを強化し、競争の中で学力の向上を図りました。

⑤オバマ大統領

2010年にウィスコンシン大学で「学校がうまく機能しないというexcuse(言い訳)はいつでも存在する。やるべきことをやらずに言い訳をしてはならない」と講演し、”No excuse"という言葉がバズりました。彼は「教育の原点は、弁解なしに公平で正当な競争が必須であるという教育の”自己責任性”の重要性を強調しました。確かに彼自身「黒人だから」というexcuseなしに大統領まで上り詰めたのだから、説得力がありますね。

そして、今のアメリカの教育の現状はどうかというと、

生徒の遅刻はなく、授業中は静か、廊下は整列して静粛に移動する。教師は積極的に生徒を指導し、生徒は教師の指導に素直に従い、『明るく、自由に、のびのびと』行動している。

らしい・・・。本当か??

確かに上記の通り1960、70年代の混乱を乗り越えて、昔に比べたら格段に教育環境は整備されたと思います。ただ上の引用はあくまで著者の限られた知識と経験に基づいた固定概念にも思えます。一概に、アメリカの教育は規律も整っており、素晴らしいと断言するのは危険すぎです。

実はこの作者、非常に左寄りで、「イギリスやアメリカの規律を重んじた厳格な教育と学力至上主義を日本でも取り戻さなければならない!」と終始主張しています。間違ってはないと思いますが、懐古主義で、すごい偏っているなぁと思いながらこの本を読みました。

おそらく多くの方がアメリカは自由と民主主義を尊重する国なので、学校教育においても自由が奨励されていると思うかもしれません。確かに拘束されない、管理されない自由(校則や制服など)は認められていますが、規則を積極的に守り、規律正しく行動することは強く求められています。

また、オルタナティブ(代替案)教育はアメリカの特徴であり、例えば能力が溢れる子は「gifted(才能がある)」と認定され、特別な教育が与えられたり、不登校の子や反社会的・非社会的な生徒、または妊娠・子持ちの生徒などが通えるオルタナティブスクールが充実しているのはやはりアメリカらしいと思います。

というわけで、アメリカの教育についていろいろと書いてきましたが、やはり私の中ではHigh Tech Highのような子供たちの可能性を信じて、creativity(創造性)を最大限まで引き上げるような教育が理想です。それは日本の同質性を求める画一的な教育ではなかなかたどり着けない境地ですが、自分は日本でそこを目指してこれからも邁進していきたいです。