作詞講座 第二回 「遠近法」

遠近法ということについて。
近くのものはハッキリ見えて、遠くのモノはぼんやり見える。
歌詞で、その近景と遠景の組み合わせを考える。

近景と遠景、すなわち具体と抽象。

第一回に引き続きユーミンの歌詞を見てみよう。

淡き光立つ 俄雨
いとし面影の沈丁花
溢るる涙の蕾から
ひとつ ひとつ香り始める

<春よ、来い> 松任谷由実

コンセプトということでは、文語調の歌詞で和を表現しようとするコンセプトが明快だが、今回は具体と抽象について視点をあてよう。
沈丁花と固有名詞が出てきて、具体度が上がっている。
「沈丁花」のところ、例えば「白い花」などとするのが抽象。
固有名詞を入れて、具体度を高くすることで、歌詞にメリハリができる。

雨上がりの庭で くちなしの香りの
やさしさに包まれたなら きっと
目にうつる全てのことは メッセージ

<やさしさに包まれたなら >松任谷由実

もう一つユーミンの例。
全体的に抽象度の高い歌詞だが、やはり「くちなし」という固有名詞を入れている。

さだまさしの歌詞などは、具体描写だけで構成されることも多い。

城跡から見下せば 蒼く細い河
橋のたもとに造り酒屋の レンガ煙突

<案山子>さだまさし

みごとな具体描写だ。

逆に、小田和正。

雨上がりの空を見ていた 通り過ぎてゆく人の中で
哀しみは絶えないから 小さな幸せに気づかないんだろ
時を越えて君を愛せるか ほんとうに君を守れるか
空を見て考えてた 君のために 今何ができるか
忘れないで どんな時も きっとそばにいるから
そのために僕らは この場所で 同じ風に吹かれて 同じ時を生きてるんだ

<たしかなこと>小田和正

どこまで、歌詞を追っても具体描写は一切出てこない。
他の歌をみてみても、この人はあえて、そういう歌詞づくりをしてるのだと思う。

私の歌詞の例を挙げてみよう。

かみやーき小の並びにある
星野商店の隣にある
看板の無いさしみ屋が
おまえの好きだった店

<さしみ屋>頭慢

具体描写だ。「かみやーき小」「星野商店」と、固有名詞が登場。

君が見てるモノは本当にそこにあるのかしら
君が持っているモノは本当に君のものなの
誰かが作ったモノを誰でも無い何かが作る
そんな世界の中で僕たちはこれからどうしよう

<風の時代>頭慢

こちらは逆に、抽象描写の例。
抽象描写が過ぎて、歌詞としてぼんやりしてるかなと思い、この部分二番ではあえて具体描写にした。

夜の空を見上げれば土星と木星が近づいて
約束が苦手だったあの子は風の星座の誕生日
遠い所から来たメッセージは誰からのもの
生きているか死んでいるかそれすら関係ない

<風の時代>頭慢

歌詞が具体的か抽象的か、近景遠景を意識してコントロールするのが肝要。
オーディエンスに明瞭なイメージを届けるなら、固有名詞的なアイテムを入れて具体化する。
オーディエンスに想像をふくらませてもらうなら、わざと歌詞を抽象化してぼんやりさせる。
その使い分けが、歌詞における遠近法だ。

作詞講座第二回のまとめ
「作詞の遠近法」

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