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ピラミッド・レイク

まるで、西部劇の世界にでも迷い込んだかのような。ずっと地平線まで続く荒野。たまに、枯れたセイジブラシュ(ヤマヨモギ)のまん丸い塊が、風にあおられて転がってくるのも映画で観たのと一緒。

リノを車で出発し、1時間ほどこの砂漠の荒野を突っ切るハイウェイを走ると、突然目の前に湖が現れる。ピラミッド・レイクである。名前の由来は、ピラミッドの形をした島があることから。昔は、このあたりに先住民のパイユート族が住んでいたとのことで、今でも彼らの伝説や物語が残っている。

僕がリノに留学してすぐ、地元の方が夕食に招待してくれた。食事が終わり、みんなでスクラブルやモノポリーをして遊んだ後、ふと「ピラミッド・レイクにこれから行ってみないか?」という話になった。なんでも、先住民の言い伝えが残る、なにやら顔の形をした巨大な岩があるらしい。

友人たちと一緒に、真っ暗なハイウェイを車で走り、夜更けに湖の畔に到着した。

「この近くにあるはずなんだけど」
「顔の形をした岩ってどれ?」
「あ、ちょっと待って、これじゃない?これ、顔でしょ」
「いや待って、こっちの方が顔っぽいよ」
「そういわれてみると、顔だらけじゃない?このへんの岩」

こういうのを“パレイドリア”というらしい。岩などのランダムな形の中に、人間の目や鼻や口の形を認識して、そこに人間の顔があるように見えること。真っ暗な湖のほとりで、僕らはそこらじゅうの岩にたくさんの顔を見つけていった。

あとから知ったのだが、あの日僕らが行った場所は、確かにピラミッド・レイクではあったのだが、人の顔の形をした岩はもっと全然違うところにあったらしい。なので、僕らが見つけた顔の形をした岩は、全部僕らの錯覚である、と。でもあの日、僕らは確かに、湖のほとりにたくさんの人面岩を見つけたのだ。

* * * 

大学のフォトグラフィーのクラスに、とても美しい女性がいた。ブルック・シールズの若いころによく似ていて、背が高くてスタイルがよく、笑顔がとても素敵だった。クラスにいると、ついつい見とれてしまうのは僕だけじゃなかったはず。

シングルマザーで子育てをしながらモデルの仕事もしつつ、大学で写真の勉強をしているってことを人づてに聞いて、ますます好きになった。

ある日、その彼女が授業の終わりに彼女が僕のところに来て、笑顔で「これ、後で読んで」って、小さく折りたたんだ紙を僕の手の中に滑り込ませてきた。なにこれ、意味深な。「じゃ、また来週ね」って去っていく彼女の後姿を見送りながら、僕は真っ赤な顔でしばらく茫然と立ち尽くした。

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アメリカで陶芸彫刻を中心にアートを学び、ロサンゼルスでホームレスになりかけつつもフォトグラファーとして仕事を得て、その後日本でウェブデザイナーからデジタルマーケケターへ。

日曜アーティストとして、今まで展示した作品や、開催したワークショップなどをまとめていきます。

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「日曜アーティスト」を名乗って、くだらないことに本気で取り組みつつ、趣味の創作活動をしています。みんなで遊ぶと楽しいですよね。