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個別指導塾の社員(教室長)の危険性について

 教室での個別指導は下図のような4者関係によって成り立っています。保護者と教師が直接コミュニケーションを取ることはあまり多くありません。保護者とのコミュニケーション窓口は会社(塾)の社員が担当することが多いです。今日はこの関係にどんな問題があるのかを詳しく見ていきます。

 保護者と教師の間に「教務担当社員」なる人が介在するところが個別指導業界の特徴です。その呼び名はいろいろあり、「塾長」「教室長」などと名乗っていることもありますが、その実態は営業マンであり、教育者ではないことに注意が必要です。要するに会社(塾)の社員であり、売上に最大の関心を持つビジネスマンです。この教務担当社員が介在することにより個別指導業界は特有の困難を抱えていると私は考えています。

 教務担当社員は顧客である保護者との窓口となって顧客の要望を教師に伝えたり、教師からの報告事項を保護者に伝えます。社員が間に入る理由は、トラブル防止、解約防止、コマ数増の提案をするため等であり、教育上の理由ではなくあくまで商売上の理由です。しかし保護者にとってはメリットがあります。この社員は保護者に対して悪いことは言いません。彼らは何よりもクレームを恐れる会社員だからです。保護者からの要望には必ず迎合しますし、それを教師に伝えてくれます。保護者から見ればありがたい存在でしょう。もし保護者が直接教師に注文をつけたりしたら信頼関係が壊れたり、こっぴどく論破されたりしかねません。なのでお客様として最大限尊重してもらえる教務担当社員の存在はありがたいはずです。保護者によっては安心して悩み相談ができる相手として頻繁に会社に電話を掛けてくる人もいます。ときに不安な保護者をケアする役割を担うという点では一定の貢献を認めることはできます。

 上図には典型的なケースについて、4者の間でどのようなパワーが流れるのかを記しました。まず、保護者が教師のやり方を尊重して任せる方針の場合は問題ありません。本稿で問題視するのは、保護者が子どもを抑圧したがっているケースです。その場合には子どもが窮地に立たされる場合があります。まず、保護者が宿題をたくさん出してほしい、進捗管理をしてほしい、厳しく指導してほしいという要望を出してきます。それに対して教務担当社員は迎合し、教室で生徒に圧力をかけます。そして教師にもそうするよう働きかけてきます。このように、まず保護者と教務担当社員は一致団結して一つの塊をなします。保護者にとっては無条件に味方を一人ゲットできるわけです。子どもから見れば抑圧してくる大人が一人増えることになります。さらに、教師もそれに同調するケースも少なくありません。そうなると子どもにとっては四面楚歌です。このように個別指導サービスは一人の子どもを多くの大人が囲い込む構図になりがちです。これはかなり危険なことだと私は思っています。なぜなら、生徒に向けられるこれらの大人たちからのパワーは商売上のモチベーションにより駆動されているからです。保護者が望めば不適切なパワーが行使される危険性もあるのです。

 以下、ケースを2つに分けます。講師がアルバイトなどの従業員の場合と、個人事業主のプロ講師の場合です。それによって事情は少し異なります。

(1)講師が従業員の場合

 講師が塾の労働者である場合は、教務担当社員は上司になりますから、その命令に従う義務が発生します。したがって、もし保護者が不適切な教育指導を要求した場合、歯止めをかける人はいません。3者の大人たちが団結して子どもを「管理」することになります。
 こう聞くと個別指導でアルバイトをしている大学生の読者の方などはピンと来ないかもしれません。自分の職場がそんなにシビアな状況だとは思えず、けっこう気楽に授業できていると感じているかもしれません。しかし実際には保護者が苛烈な要求をしてくる家庭はあります。ただ、そういう案件はベテラン講師に回されているので学生アルバイトからは見えづらいだけです。

(2)個人事業主のプロ講師の場合

 講師が塾の労働者ではなく、業務委託契約のプロ講師の場合は少し事情が異なります。業務委託契約は対等な関係ですから、教務担当社員は上司ではないのです。教務担当社員は講師に対し命令することができませんので、顧客の要望として伝えることしかできません。講師はそれに従う義務がありませんので、自らの職業的良心を貫徹することが可能です。もっとも、あまり大胆にやりすぎると仕事依頼をもらえなくなるリスクはありますが。
 ただし、この場合にも、教務担当社員がネックになることはあります。たとえば、講師から保護者への報告事項を、それが保護者の不興を買うと思えば教務担当社員は握りつぶすことがあります。逆に保護者からの要望を講師に伝えないこともあります。それがその講師の教育観から言って到底受け入れるはずがない内容のときです。そうなると、講師も保護者も、伝えたはずのことが実は伝わっていないことになります。それは当然のちにクレームに発展することもあるわけですが、教務担当社員はとにかく解約にならなければいいという発想なので、問題に蓋をしてごまかそうとするわけです。このような教務担当社員の態度のせいで本来あるべき教育が遂行できないリスクがあるのです。

 以上見てきましたように、個別指導塾における4者関係には特有のリスクがあります。その中心にいるのは塾長とか教室長とも呼ばれる教務担当社員です。彼らが商売上の関心で動くことにより子どもを取り巻く環境が不安定化します。たとえば保護者の非常識な教育方針に加担し、それをエスカレートさせてしまう危険性があるということです。
 それに加えて、教務担当社員は教育に関する危険な考え方を保護者にレクチャーすることさえあります。「子どもは言わないと出来ませんのでキッチリ管理したほうがいいですよ」「当塾ではゴールから逆算したカリキュラムに従ってやらせますから」「毎週しっかり進捗管理して確実に宿題をやらせますから」などといって、まるで上司が部下を管理するように子どもを教育したほうがいいと説きます。そのほうが効率が良く、コスパが良く、ワンランク上を目指せると誘います。教育をまるでビジネスのように語る語り口が彼らの特徴です。繰り返しますが彼らは教育者ではなく、営業マンなのです。ちなみに私見ではこれらの言説はすべて詭弁にすぎないと思っています。
 保護者におかれましては、教務担当社員に依存するのは良くありません。お子さんと講師との関係性に注目してください。大事なのはそれだけです。そして、よく言われる通り、保護者は教師の仕事に介入しないほうが良いです。それは常識としてわきまえていただきたいと思います。


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