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生命現象を数学で定義した人

グレゴリー・チャイティンは、アルゼンチンの数学者、計算機科学者です。

彼は、クルト・ゲーデルが証明した不完全性定理を、プログラミング言語のLISPで証明しました。

その後、チャイティンは、IBMの研究所にて研究を続け、2011年にサンタフェ研究所で「メタ・バイオロジー(超生物学)」、翌年にProving Darwin: Making Biology Mathematical(ダーウィンを数学で証明する)を発表しました。

↑の著書は、メタ・バイオロジー(超生物学)の研究をまとめたもので、「生命現象とは何か?」を数学で定義したものです。

もともとチャイティンは数学者なので、数学について研究をする数学「メタ・マスマティックス」(超数学)という著書も発表しています。

「新陳代謝(メタボリズム)による自己の状態の維持と、自己増殖が生命である」

これは、進化生物学の第一人者であるメイナード・スミスによる「生命の一番簡単な定義」です。

新陳代謝(メタボリズム)とは、「何かを取り入れて、何かを排出する。古いものが新しいものに入れ替わる」という意味です。

メイナード・スミスは、「新陳代謝のあるものが生命である」と定義しました。

しかし、これではアルコールランプの炎も生命になってしまいます。なぜなら、炎は燃料によって維持されて、自己増殖をしつつ二酸化炭素を排出しているからです。

生命には進化や遺伝がある

一方チャイティンは、生命についてDNAの概念を使って数学的に定義しています。

チャイティンによる生命現象の定義は、「スペースをランダムウォークしながらヒルクライミングする」というものです。

頭の中に?マークが見えますので、ひとつずつ説明していきます。

チャイティンの言う「スペース」というのは、離散空間のことです。

離散空間とは、その点がすべて、ある意味で互いに孤立しているような空間(ある空間)のことを言います。

「ランダムウォーク」とは、予測不能の突然変異のことです。

最後の「ヒルクライミング」は、その「スペース」を一段上に上がることを言います。

つまり生命は、ある空間(スペース)の中で突然変異(ランダムウォーク)をしながら、「抽象度」の階段を上がって(ヒルクライミング)いくというものなのです。

Levels of abstraction(抽象度)

抽象度とは、「情報空間における視点の高さを表す言葉」です。

例えば、「マンチカン」という概念の抽象度を、生き物という概念によって上げていくと、「マンチカン」→「ねこ」→「哺乳類」→「動物」→「生物」となります。

抽象度が上がるほど、その情報は抽象的になり、包括する情報の範囲が広がります。逆に抽象度が下がるほど、その情報は具体的になり、包括する情報の範囲が狭まるのです。

「マンチカン」という抽象度の階層には「アメリカンショートヘア」や「エジプシャン」の概念は含まれませんが、抽象度の階層を「ねこ」に上げると、「ねこ」の抽象度の階層には「アメリカンショートヘア」や「エジプシャン」も含まれます。

それが「哺乳類」となれば、「いぬ」も「人間」も含まれるのです。

逆に「ねこ」という概念から「マンチカン」を選び出すには、抽象度を下げて具象度(具体性)を上げなくてはいけません。

また、名前、性別、年齢などの情報がなければ、港区六本木の猫カフェ○○にいるマンチカンの○○ちゃんを特定できません。

もし、港区にマンチカンの○○ちゃんと同姓同名のねこがいたら、その○○ちゃんを特定するのには、より具体的な情報が必要になります。

ざっくりと、上記のような考え方を「抽象度」という言葉で表すのです。

DNAと生命

DNAの発見以前の進化は、完全にランダムな突然変異でした。突然変異の確率や、どのように変異するのかもわかりません。

ランダムを計算するには、イギリスの数学者アラン・チューリングで有名な、チューリングマシン(仮想機械)で計算します。

生命の進化にかかる時間を計算すると、分子の数nに対して、最低でも「nの5乗」レベルのヤバイ計算になります。

「nの5乗」レベルの計算がどれほどヤバイのかというと、宇宙の歴史138億年をかけても無理な計算というレベルです。

生命は単純なランダムでは、ほぼ絶対にここまで進化できなかったはずですが、そこにDNAの概念を登場させることで、生命現象がうまく説明できるようになります。

DNAは、前のDNAの状態を継承(遺伝)していくことで、進化は可能であるということを証明したのがチャイティンの言う、「ランダムなヒルクライミング」なのです。

そこには、何らかの知的な存在が宇宙や生命、進化を設計したという考え(インテリジェントデザイン)があったのに近い計算量のオーダーで進化ができる、というのがチャイティンの論理です。

ダーウィンはDNAという言葉こそ使っていませんが、今の時代にダーウィンが進化を論じれば、必ずDNAの概念が入ってくるはずです。

チャイティンの主張は、「DNAとランダム性があれば、地球時間で生命は進化できる」というものなのです。

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