「万能セラピー」アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)とは?
アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)は、うつ、不安、中毒症状などに苦しんでいる人を助けるために、内省・内観的視点と行動戦略を利用する心理療法のひとつです。
ACTの目標は"症状の軽減"ではなく、"困難な状況や状態の時に、その人にとって意味のある方法で行動することを奨励します。
ACTのセッションは通常約1時間で、ニーズに応じて8〜16週間、それ以上のセッションをすることもあります。
比較的新しい治療法なので、研究は主に成人向けのACTに焦点を当てていますが、若者にも役立つことを示唆する研究がいくつもあります。
ACTとは?
アクセプタンス&コミットメントセラピーは、人生における痛みと苦しみは、避けることができないものであるという視点を持っています。
セラピストは、痛みや苦しみのコントロール、回避を指導するのではなく、これらを受け入れてスペース(余裕)を作ることを奨励します。
また、ACT療法の最大目標は、より幸せになることではなく、「Psychological Flexibility(心理的柔軟性)」を開発し、有意義な生活を送ることです。
心理的柔軟性とは、たとえその状況が苦痛または動揺を伴っていても、自分の価値観に基づき行動、判断の選択を可能にする心理的開放性の状態として定義されます。
・思考、感情を受け入れる
・より価値のある方向を選ぶ
・行動を起こす
アクセプタンス&コミットメントセラピーのコアプロセス
ACTには、心理的柔軟性を開発するのに役立つ6つのコアプロセスがあります。
1.内省・内観的視点
内省・内観的視点は、AだからB、BだからCという判断ではなく、そのままの情報を判断せずに認識する視点を意味します。
内省・内観的視点は、自分が現在どこにいるのか、何をしているのかなどの外的状況を認識したり、ありのままの思考や感情を認識するために活用できます。
ACTの内省・内観的視点は、内・外面的な状況が困難な場合でも奨励されています。
2.認知的分散(Cognitive Defusion)
認知的混乱がある時は、自分の思考から距離を置くトレーニングのチャンスです。
認知的分散は、内省・内観的視点の使用によっても実現可能です。
認知的分散のスキルは、認知的混乱に対抗するのではなく、認知を切り離す方法で思考を観察するのです。
3.アクセプタンス(受け入れ)
思考や感情をアクセプタンス(受け入れ)することは、ACTの中核的な要素のひとつです。
心理的な痛みに対する一般的な反応は、それを止め、避けたりすることですが、ACTは心を開き、感情を招くことを奨励します。
そうすることで、困難な思考や感情は一時的なものであり、自然消滅することを認識するのです。
4.文脈としての自分
ACTでは、人間は自分の思考に巻き込まれて困難な状況に陥ると認識します。
ほとんどの思考は、「自分」を中心に構成されており、この文脈としての「自分」が自分自身を立ち往生させ、役立たない思考に結びつけていると考えます。
代わりにACTでは、思考を内省・内観的視点で捉えて再認識することを奨励します。
例えば、
「私はお金が足りない」ではなく
「私はお金が足りないという思考に気づいている」というふうになります。
5.パーソナルバリュー(個人的な価値観)
ACTのもう一つの中核的な概念がパーソナルバリューです。
高度に個別化された個人的な価値観は、人の人生に意味と目的を与える原則と活力です。
ACTでは、人々が自分の価値観に従って行動しているときに最も満足していると考えています。
ACTでは通常、自分の価値観を特定し、日常生活の中でそれぞれの価値観を実証しているレベルを評価します。
6.コミテッドアクション(Committed Action)
Committedは日本語にすると献身的となりますが、ACTの場合、自己犠牲的な献身ではなく、積極的を意味します。
つまり、コミテッドアクションとは、自分の個人的な価値観に従って行動することを指します。
人は有意義な人生を築くために、恐怖や失望、時には傷ついたりすることがあるというふうに自分自身に認識しておくのです。
内省・内観的視点とACT
ACTの特徴は、他のメンタルヘルスセラピーなどに組み込むことができるところです。
内省・内観的視点を増やすことは、ACTの実践を強化することにつながるので、ACTと内省・内観的視点のコラボレーションは機能的です。
また、他のセラピーとのコラボレーションでも強力な結果が期待できます。
ACTは何に役立つか?
アクセプタンス&コミットメントセラピーは、様々なメンタルヘルスの障害、物質(薬物など含む)使用障害、ストレス、悲しみ、価値観、仕事と生活のバランスの改善などを治療するために使用されます。
ACTは、Experiential Therapy(体験療法)と同じ技術を利用する、比較的新しいタイプの治療法であるため、現在も研究が続いています。
メンタルヘルス障害のためのACT
ACTが有効な研究データがあるのは、以下の症状になります。
・うつ症状
・不安障害
・慢性的な痛み
・強迫性障害
・精神疾患
・物質(薬物など含む)使用障害
各種ストレスのためのACT
以下にリストしている各問題に対するACTの明確な研究データはありませんが、多くのセラピストは、以下の問題にも治療効果が望めると説明しています。
・悲しみ、死別
・離婚、別居
・バーンアウト(燃え尽き症候群)
・仕事、生活の不安定
・人間関係の問題
・慢性的な疾患
・子育ての困難
ACTの利点
ACTの一般的な利点は次の通りです。
・メンタルヘルス症状の改善
・自身の思考方法などの改善
・感じ方(感情)の改善
・固執した思考からの切り替え、離脱
・周囲での存在感を高める
・人生の目的、価値観、ゴールを明確にする
ACTテクニックの概要
アクセプタンス&コミットメントセラピーには、クライアントのサポートに必要なテクニックとストラテジー(戦略)があります。
セラピストはセッションの早い段階で、ACT理論をクライアントにより良く理解させるよう、教育に集中することがあります。
その上で、効果的でない思考や対処法を明らかにするため、クライアントの現状の思考や感情の対応方法を評価します。
その後セラピストは、クライアントにより効果的な思考・感情の対応方法を伝えます。
最後にセラピストは、クライアントが自分の価値観を特定し、思考や行動を変更し、人生において、より一貫した価値観を実証できるようにサポートをするのです。
ACTメタファー
ACTセラピストは比喩を使用して、クライアントに感情を理解する新しい方法と最適な対応方法を教えます。
ACTメタファーの例
運転手と乗客
感情と自分を運転手や乗客に例えてクライアントに説明します。
怒りや恐怖の感情を運転席に座らせて運転を任せてしまえば、きっと乗客席の自分が行きたい所へ辿り着くことはできないでしょう。
しかし、理性的な自分が運転手となり、感情を乗客席に座らせれば、自分が行きたい所へ必ず行けるはずです。
ACTでは、クライアントが運転席に座り、乗客に感情を座らせることを奨励します。
感情は不愉快な乗客かもしれませんが、運転手には最も向いていないのです。
プールとビーチボール
ACTでは、困難な思考や感情を止めたり、制御したりする努力は、やがて疲れ果て、効果的でない可能性があることをクライアントに教えます。
これを説明するためのメタファーは、感情をコントロールする行為を、ビーチボールをプールの水に押し込もうとする状況で例えます。
ビーチボールを水に押し込むには、多くの努力とエネルギーが必要ですが、最終的には水面に戻ってくるので効果的ではありません。
つまり、感情を押し殺したり無理矢理に制御すれば、一瞬は救われたような気がしますが、複雑な思考や感情は、また元に戻ってくる傾向があるということです。
流砂
流砂は、感情に抵抗したり制御しようとする方法はあまり効果的でないということを理解するのを助けるために使用するもうひとつのメタファーです。
流砂で立ち往生してうまく動くことかできない状況で、さらに無理矢理もがいても、その状況は悪化するでしょう。
その場合は、まず落ち着いて、リラックスをして意識的にゆっくりと動き出すことが流砂から解放される唯一の方法であり、困難な思考や感情から抜け出す方法でもあります。
↑の動画は、リアルな流砂からの脱出方法ですが、人間の困難な思考や感情の脱出方法にも通じるものがあります。
次回は、さらにくわしくアクセプタンス&コミットメントセラピーをお伝えします。
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