突然ショートショート「顔自動販売機」/毎週ショートショートnote
昔、新零アーバンテレビで放送された「昼のニュース」に、彼は釘付けになっていた。
「春野市のスーパーに『顔自動販売機』が設置され、物議を醸しています」
「何!?『顔自動販売機』だって!見よう一緒に」
「いい。お前は報告書まだだろ、そんなニュース見てる暇ないぞ~」
僕の呼び掛けもむなしく、彼はテレビ画面をかぶりつくように見ていた。
「昨日設置されたこの『顔自動販売機』は、中から人間の顔を再現したお面が出てきます」
「見た!このお面!イケメンだよ」
「あー、すごいね。リアルだね」適当に言葉を見つけて返す。
「しかし、『ルッキズムを助長する』『なりすましの危険がある』との声があり、会社は4日までにこれを撤去しました」
「……」彼は沈黙していた。
「さっ、諦めて報告書……」
「諦めきれるか!こんな素晴らしいの、撤去されたなら自分でもう一度作る!」
彼はその後、30歳で亡くなった。
死因は『顔自動販売機』の開発中に起きた反対派からの襲撃だった。
(了)(415文字)
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