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読み切り「県警怪物対応部隊」

 とある晴れた春の日のことであった。県警怪物対応部隊は、緊急出動の要請を受け、専用車で郊外の現場へと急行していた。
 車内には専用の防護服に身を包んだ5人の姿があった。

 助手席に座る真野まのは、肘掛けについたスイッチを押してモニターを起動させた。

 モニターにはインカムをつけた女が映る。
「怪対3、こちら司令部」
 真野はモニターに映る司令部と通信を行う。
「こちら怪対3。現着予定からあと10分ほど遅れる見込み」
「了解した」
「これで通信を終わります」
「了解」

「どうでしょう。遅れ、縮まりそうですかね」
 真野は運転席に座る隊長の勝田かつたに見込みを尋ねる。
「あー…ここまでが時間かかったからな。サイレンかけても横断歩道はみんな平気で渡るし、渋滞にもはまるし。今はぶっ飛ばせてるからまあ大丈夫だろ」
「なるほど」

 専用車はサイレンを鳴らしながら有料道路を快走していた。

「それはそうとしてさかき、車内で化粧はないだろお前」
「そうですよ。なぜ化粧してる様子を隣で見せられなきゃいけないんですか」
 勝田の突っ込みに、後方左側の席に座る今末永いますえながが同調する。

「いや…少しぐらいは」
「そんな顔見られる仕事じゃないんだから」
「…じゃあ聞きますけど、今末永さんがさっきまで弁当を食べてたのはいいんですか」
「な、仕方なかったんですよ、緊急出動だったんだから。残したまま腐らせるぐらいなら栄養にした方がいいでしょう」

「うんうん」真野は今末永の主張に頷く。
「えー…」榊の声はロードノイズの中に消えていった。

 中央の席に座る菅原すがわらは何も呟くことなく、2人の言い争いを受け流すように前方を見つめていた。
 ただ、同じ女性である榊の化粧については同情できないような様子だったが。

 出入口を降り、現場のある町の一般道を走る。
 ベッドタウン的な町並みには車も少なく、遅れを取り戻すような走りを見せていた。

 フロントガラスに現場となった倉庫跡の惨状が映る。
「ここですよね」
「間違いない。派手にやられてる」

 真野は再び司令部との通信を始めた。
「怪対3、こちら司令部」
「こちら怪対3、ただいま現着。これより任務を開始します」
「了解した。健闘を祈る」
「了解。これで通信を終わります」
「了解」

 勝田がエンジンを切ると、全員は一斉に降りて車の後方の武器庫へ走り、各々の武器を手に持った。

「よし。これより任務を始める!」
「はい!」

 そして4人は、目の前にいる怪物を鎮圧すべく攻撃を始めた。

 人間大より少し大きい程の怪物だった。

 榊と真野の2人は盾を持ち、盾代わりとなる専用車の隙間から今末永がマシンガンの弾を撃ち込む。
 
 響くうめき声。そして飛び散る血。
 一方で相手の反撃は、勢いが落ちることなく続いていた。

「電気鎌装置用意!」
「はい」

 勝田の一声に応じるように、菅原は武器庫から電気鎌装置を用意した。
 怪物にぶつけてから高圧電流を流して気絶させるのだ。

「電気鎌、発射」
 装置から高速で鎌が放たれ、怪物に命中した。
 一度命中すれば中々離れず、相手の動きを止めるのにも繋がる装備だ。
「放電します、隊長」
「うむ」
「放電開始」

 菅原が装置のボタンを押すと、怪物は一段と大きなうめき声を上げて倒れた。
 
 それを確かめた今末永が一瞬の隙を突いて麻酔弾を放つ。
 怪物の動きは停止したままだった。

「…やったな」
「ええ、一応」

 真野が専用車に戻り、任務終了の連絡をとる。
「怪対3、こちら司令部」
「こちら怪対3、怪物を鎮圧。回収班への引き継ぎ願います」
「了解した」
「了解。これで通信を終わります」
「了解」

 しばらくして回収班がやってきた。検査の結果、怪物は絶命したことが確認され、無事に回収された。

 「…こちら怪対3、怪物を鎮圧。回収班への引き継ぎ願います…」

 これで部隊の任務は終わった。5人は再び専用車で帰路に着く。

 夕日の差す有料道路を、勝田の運転で走る。
「みんな寝てますね…」
 起きているのは勝田と真野の2人だけだった。
「そうだな。やはりエネルギーを使うからな、こういうのは。お疲れ様」
「いえいえ」
 後部座席で眠る榊、菅原、今末永の姿をバックミラー越しにチラッと眺めながら、勝田は専用車を駆っていた。

 この世に怪物の存在がある限り、県警怪物対応部隊は駆けつける。
 怪物を鎮圧し、市民と町の平和を守るため。

(完)(1753文字)


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