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面白かった本とともにふり返る2018年(エッセイ、ノンフィクション、サイエンス)

今年をふり返るのが年末の恒例行事。そしてnoteには推薦図書のハッシュタグ。せっかくなので、今年読んだ本を推薦図書としてふり返ることにいたしましょう。

もちろん推薦図書なので面白かった本だけを。私が2018年に読んだ本なので、新しくない本も含みます。すべてKindle本です。

小説と漫画は除外しました。結果、エッセイとノンフィクションとサイエンスに。

それにしてもAmazonの注文履歴が長すぎて、2018年をふり返るのもひと苦労だ。買った順にそのままいっちゃうぞー。

森博嗣『道なき未知』

森博嗣のエッセイは何冊か読んで「似たようなことばっか書いてるな……」と感じて以来、買うのをやめていた。これはネットの連載をたまに読んでいて、興味があったので購入。今までのエッセイの中で一番好き。ただ、個人的に耳が痛い一冊でもあった。

オリヴァー・サックス『見てしまう人びと 幻覚の脳科学』

人間の脳というものは、よくもこれだけの幻覚を思いつくものだ……と感嘆する。「ユニコーンのにおい」というフレーズが詩的すぎた。確かこの本で幻覚の描写に出てきたと思うんだけど。

筧久美子『李白 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』

李白の代表的な漢詩、李白の人生ダイジェスト、さらに国内外の李白研究の本もちらっと紹介してくれる一冊。日本語と同様、中国語も古代と現代ではかなり変化しているから、当時の発音で李白の詩を聞いてみたかったなぁ。客家語は古代中国語に近いんだっけ。

ジュディス・リッチ・ハリス『子育ての大誤解 重要なのは親じゃない 新版』上下巻

親のせいで子どもはこうなったんだ的な言説があふれ返る世の中に、断固としてNOを突きつける一冊。貧困で栄養不足だったり、適切な教育が受けられなかったりすると子どもには大きな影響が出る。著者もそれは認めている。しかし、ことあるごとに「親の育て方が悪い」って言ってもしゃーない。生まれ持った子どもの性格や特性のほうがもっともっと強いから。

ただ、これは同胞の研究者に向かって「お前のここはまちがってる、なぜならこういう結果が出ている、論拠も薄いぞ」と主張していくタイプの本(つまり論文)でもある。毎日バタバタと育児に追われている多忙な保護者が、育児のヒントを求めて読むのにはあまり向いてない。

新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

最近やたらAIがブームなので、最初に「言っとくけどAIってやつは数学だからな、数学でできないことはAIにもできないからな」と念押しする著者。打ち合わせの席で、AIに頼れば全部うまくいくんでしょ?なんて言われたりするんですよね。AIは魔法ではありませんよ……。

著者の話は衝撃的だけど、ネットで大量に見かけた「文章を読んでるはずなのに全然読んでない、それなのに内容を理解したつもりであれこれ言ってくる」という実例を思い浮かべると、つじつまが合う。私も門外漢の内容だと読んだつもりでほとんど読めてなかったりするし、自覚しなきゃと思う。

文章を読んでるはずなのに読んでないのって、きっと英語の長文読解テストに近い感覚だろうな。知ってる単語や表現があるけど実は全体として把握しきれてない。でも読んだつもりで適当に推測しながら答え書いちゃうの。で、その程度のことなら、文章を理解していないAIにもできちゃうし、なんならAIのほうが正答率も高い。

ローレンス・クラウス『宇宙が始まる前には何があったのか?』

これ、すごくないですか。宇宙のなりたちを調べてたら、宇宙は無から始まって膨張し続けていることがわかった。そこまでは有名な話(そして無から始まったのが証明できるってのがすでにクレイジー)。でも膨張を続けるうちに、やがて銀河と銀河のあいだはどんどん遠ざかっていく。

やがて銀河は遠ざかりすぎて、かつてそこに存在したという痕跡をたどることすらできなくなる。宇宙のなりたちを調べることもできなくなってしまう。それが科学で(というか物理学で)証明できた、と。まじやばい。科学の最先端のほうが、もはやファンタジー。

「これから二兆年ほどで、局部銀河団に含まれる銀河を別にすれば、すべての天体が、文字通り姿を消すことになる」(位置No.2043)というやっべえ文章が、さらーっと出てくる。なんじゃそれ!と興味を持った人は、この本を買いましょう。

高村友也『自作の小屋で暮らそう Bライフの愉しみ』

田舎の小さな土地を買い、自分の手ひとつで小屋をつくって暮らしている人の本。ソローの『森の生活』は国も時代もちがいすぎて参考にならないけど、この著者は現代日本に暮らしているため、臨場感があって面白い。

ライフラインについても、土地についても、なるほどこういう法律があるのか……などと知らないことがいっぱい。自分で真似したいかと聞かれると、虫が苦手すぎて真似したくないのだが、小屋暮らしの創意工夫の話を聞くのは面白いのだ。

苅谷剛彦『知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ』

書かれている物事を「本当にそうかな?」と考えながら読むことについて。「この文章はどういう意図で書かれたのか、どれくらい修正されて完成形に至ったのかを考えてみよう」というくだりは面白かった。言われてみれば……!

シッダールタ・ムカジー『遺伝子 親密なる人類史』上下巻

遺伝子に興味を持つきっかけともいえる著者本人の思い出が、ところどころに挿入されていて、かなり長い割合を占める。そのため、しばしば何の話だったか忘れそうになった。

遺伝子によって決められていることはあまりにも多い(遺伝子の影響は非常に大きい)反面、この遺伝子はこういう効果があるのだとはっきりわからないケースも多い。

また、家畜をかけあわせるように人間をかけあわせようとした優生学は、ナチスの大量虐殺の反省から下火になるものの、現代では出生前診断という新たな姿でよみがえりつつある(多分この本に出てきたはずなんだけど、ハイライトがところどころ消えてて確認できなかった)

いとうせいこう『自己流園芸ベランダ派』

一戸建ての庭がなくても、マンションのベランダで植物を育てて愛でることはできる。そんなベランダでの園芸エッセイ。じわじわと笑えてくる書き方がなかなかよい。

付録の対談も面白かった。「植物を買って世話しても枯れちゃうのが悲しかった。でもいろいろやってみて、駄目なやつは駄目なんだとわかった」という言葉に、悟りの境地をかいま見た。

鈴木大介『されど愛しきお妻様 「大人の発達障害」の妻と「脳が壊れた」僕の18年間』

以前読んだ『脳が壊れた』の続編に位置するエッセイ。こうやって、ひとりひとりの特性にあわせてコミュニケーションをとるのは簡単なことじゃない。でも遠回りをしながら「もしかして、相手はこういう行動原理で動いてるんじゃね?」と気づいて、それに合ったやり方を模索して、夫婦関係が改善していくさまは発見に満ちている。

ケヴィン・ケリー『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』

インターネット、まじで人類を変えてしまったんだなという感想をいだいた。タイトルはその次に来るものについてなんだけど、どっちかというと本の内容は「ネットによってここまで世界が変わった」という話が多い。そして今後を占う上では、やはり登場するAIとロボット。

ペーター・ヴォールレーベン『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』

noteには早川書房の公式アカウントがあり、そこで紹介されていた本文抜粋記事がきっかけとなって購入。

植物も動物と同じようにさまざまな戦略を持って生きている。自分をかじる動物や昆虫から身を守るため、仲間の木々に連絡をとったりするのだ。知らないことだらけで非常に興味深かった。

こういうのを読むと、「動物は生きているから食べちゃ駄目、植物は食べてもいい」というベジタリアンやヴィーガンの主張に疑問をいだいてしまう。めっちゃ生きてるやん、植物。

高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』

めっっっちゃくちゃ面白かった……。昔ながらの氏族社会の仕組みが現代にもうまく機能することで、紛争地帯にありながら平和を保っているソマリランド。そして完全にハマってしまう著者。

好戦的な連中は暴力の恐ろしさをわかっているので、みだりに戦争を起こさない。一方、戦いたがらない連中のほうが加減を知らず、残虐なことをしてしまって泥沼化する……という対比が印象に残った。

トム・ヴァンダービルト『好き嫌い 行動科学最大の謎』

こういう本を読めば読むほど「人間ってやつは自分のことをわかってると思ってるけど実は全然わかってないし、無意識のうちに周りの影響を受けて、それが自分の意志だと思いこんでるんだな?」と思えてくる。

我々の判断基準となる、好き嫌いという感情も例外ではない。

高野秀行、清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』

『謎の独立国家ソマリランド』の著者が、日本史の室町時代の研究者と対談した本。これがまた面白い。「日本史をやってるやつは辺境に行くといい、そこには現代人がわからなくなっちゃった昔の感覚が残ってるぜ」という。

私は酒鬼薔薇聖斗の事件の犯人と同世代だったので、当時「なぜ人を殺してはいけないの?」という子どもの問いに大人たちが答えられなくて問題になったのを覚えている。なんとこの本の対談で、それが取り上げられていた。

そんなもん、殺したら自分や家族が報復を受けるからに決まってんだろ、と辺境を渡り歩いてきた高橋さんは一刀両断。辺境だとそれが当たり前だから、皆めったなことでは暴力をふるわないという。いったん殴れば、殺し合いまで発展してしまう恐れがあるのをわかっているからだと。そういう感覚がない東京のほうが危険で怖いと。

トム・クラインズ『太陽を創った少年 僕はガレージの物理学者』

14歳にして核融合炉の製造に成功したテイラー・ウィルソンの話。そして、ギフテッドと呼ばれる天才児たちをどう教育すればいいのかという模索と成功例の物語。めっちゃ面白かった。

親が禁止すると、子どもは隠れてやり続けようとするので逆に危ない。禁止ではなく、適切な指導者を与えることが子どものためにも親のためにも望ましい、という実例の物語でもあった。

山本一成『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか? 最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質』

AIの脅威と言われても多くの人が実感を持てないのは、AIの進歩が倍々ゲームのように(あるいは指数関数的に)進むからだという説明が非常にわかりやすかった。たとえば人間の能力を100として、AIが1分おきに1→2→4と能力を上げるとしよう。AIが50を超えても、人間は「まだ半分くらいだな」と油断している。その1分後、AIは100を超えるのだ。

先崎学『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』

なんか、ものすごくまとまってる……というのが読み終えた感想。鬱病の治療に何年もかかるケースばかり見聞きしているため、迅速な対応で入院したところからまず驚いた。こういう思い切った対応は、会社員だと厳しいだろうなぁ。

最近出た『3月のライオン』14巻では、将棋コラムのページに「前巻はお仕事休んじゃってごめんなさい。鬱病で休んでました」の旨が書いてあった。いろんな気持ちや考えがふーっと脳裏に浮かんだけど、うまく言えない。

メノ・スヒルトハウゼン『ダーウィンの覗き穴 性的器官はいかに進化したか』

実に多種多様な生き物の実例が出てくるし、人に話したくてたまらなくなる。人間にとって出産は命がけだけど、生き物によってはその前の交尾の段階がすでに命がけ。それもこれも自分の遺伝子を確実に残すため。オスとメスの攻防はいたちごっこで進化し続ける。

だから見た目はそっくりな生き物でも、生殖器を見比べると実は別の種だったことが判明するケースも多いのだという。むしろ生殖器を見ないと見分けがつかなかったりする。性淘汰の圧、恐ろしい。

また、この手の研究が非常に色眼鏡で見られやすいことへの苦悩もつづられている。あまりちゃんと予算が下りなかったりとか、聞きかじった程度の内容で断定的にセンセーショナルな報道をされたりとか……。そういう報道をネタにしてすみませんでした。

ランドール・マンロー『ホワット・イフ? 野球のボールを光速で投げたらどうなるか』

サイトに寄せられた、子どもの遊びのような質問を、科学者の立場から大真面目に答えていった集大成。『空想科学読本』を思い出す。著者の手描きイラストの棒人間が、なんともいえない味わい。

犯罪を計画してるんじゃないだろうな?という少々危なげな質問もあり、その場合は警察に通報するイラストが回答のかわりになっていた。

フィリップ・マグロー『史上最強の人生戦略マニュアル』

親との関係にめちゃくちゃ苦労して縁を切った人のブログで紹介されており、興味を持って購入。課題をこなしながら読み進むスタイル。

「あなたは自分の人生を変えたいはずだ、そのためには誰かがなんとかしてくれるという甘い考えを捨てなければならない」と迫りくる本なので、特に切羽詰まってなくて助けを必要としてない人が読むと息切れします(した)

自分の傷を癒やすための本ではない。たとえば虐待などについても「行為そのものは加害者が悪い。でも虐待のせいで人間関係に支障をきたしているとしたら、あなたは今でも加害者の支配下にある。自分が受けた傷をどう扱うか、それを決めるのはあなた自身の責任だ。自分の人生を加害者から取り戻せるのもあなた自身だ」という姿勢を示している。

宮脇孝雄『翻訳地獄へようこそ』

英語の翻訳者によるエッセイ。英語の言葉も、ひと昔前と最近では意味合いが異なるため、小説を翻訳する時は時代背景や単語の初出を知らないと誤訳になってしまう。当たり前のことなんだけど、指摘されるまで気づかないんですよね、こういうの。

ロバート・ライト『なぜ今、仏教なのか 瞑想・マインドフルネス・悟りの科学』

これも大変よかった。こういう言い方すると語弊があるんだけど、日本の仏教研究者が書いた難解な漢語だらけの解説よりも、科学的な見解を交えた海外の解説のほうが、かえってすんなり腑に落ちたりするんですよね……。キリスト教圏の現代人が読むことを想定して書かれているせいか、宗教心の薄い現代日本人にも理解しやすい。

アメリカで仏教と出会った人がどのような体験をしているのか、映画「マトリックス」が彼らにとって象徴的な作品なのはなぜなのか、という話も面白かった。

岡田尊司『真面目な人は長生きする 八十年にわたる寿命研究が解き明かす驚愕の真実』

谷山浩子のFC会報で紹介されていたから読んだ。タイトルのとおり、身もふたもないことを言うとそんな感じの本。

「不真面目なほうが長生きする」とか、「好きなもんを飲み食いしてたやつのほうが長生きした」とか、その手の話はよく聞くけれども、実際に調査してみるとそうではない。不健康な食生活で長生きした人は珍しいからこそ目立っていただけなのでは?という疑惑が持ち上がるのである。

荻野慎諧『古生物学者、妖怪を掘る 鵺の正体、鬼の真実』

なぜか古生物学者が、歴史の文献をあさって架空の生物や怪物(いわゆる鵺や鬼など)のことを考察する異色の新書。なるほど、こういうところに着目していくのか。

堀江貴文『すべての教育は「洗脳」である 21世紀の脱・学校論』

ホリエモンの本は数冊しか読んでいない。あとはネットでさまざまなインタビューや対談を読んだ。その程度で言ったら怒られそうだけど、ホリエモンの本はこれが一番面白かった。今のところ。

教育って一種の洗脳だよねーということは前から言われてきたものの、実際に具体例をあげて指摘されると納得がいく。「禁止するというのはコストの安い教育手法だ。はみ出した者を叩くだけでいい。その結果、自分が何をしたいのかわからず、ただ我慢強い労働者が生まれる」とか。

ムーミン谷シリーズに出てくるスナフキンは禁止されるのが嫌いで、まさに校則のようなことが書かれた看板を引っこ抜いてしまうエピソードがあったなぁ。

あと面白かったのは、自分のハマれるものを武器にしろと言われて「自分のこれまでの資格や経験を活かすにはどうすればいいですか?」と聞いてしまう人たちの話。確かにホリエモンの言うとおり、それは過去のキャリアであって、自分がいま熱中しているものではないんだよなぁ……。

高野秀行、清水克行『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』

あのふたりの対談が面白かったので、今度は課題図書を読んでやってみようぜ!という対談本。選ばれた本のほとんどがKindle化していないあたり、専門書はあまり売れないんだよなぁという悲しさがある。

相変わらず面白かった。特に『ピダハン』についての対談が興味深い。『ピダハン』はストーリーこそ面白いものの、著者の言語学に対する意見や書き方に対しては「信頼性ねえな」という声も根強いらしい。
https://togetter.com/li/357320
https://togetter.com/li/707234

しかし、高橋さんと清水さんはピダハンについて「数の概念がないというのは普遍化しないってことじゃない? 他の辺境でこういう体験したことあるよ」とか、「過去に危機があって、わざと文明を捨てたのかもしれない」とか、「意外とピダハン語って日本語に似てるんじゃね?」とか言い合うのだ。こういう視点もあるのか!

なお、マルコ・ポーロの『東方見聞録』よりも、イブン・バットゥータの『大旅行記(三大陸周遊記)』のほうがよっぽど面白いし、著者に教養があるよね!と熱く語られていて読みたくなったものの、まったくもって電子化されていなかった。しかも一冊3000円以上する。8巻まである。大旅行記、ハードル高い。学生時代に読めばよかった。

堀越英美『不道徳お母さん講座 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』

最近の小学校で用いられる道徳の教科書が、なかなかやばいらしい。そもそも道徳ってなんなのよ? なんでそんなお話ばっかりなの? つーか国語の教科書に悲しい話ばかり載ってるのはなんで?

明治時代に幕を開けた童話の歴史。子どもに人気があった童話と、大人(特に教師)が子どもに読ませたがる童話の方向性の差異。運動会の謎。現代の小学校で推進される二分の一成人式の背景にあるものは?などなど。

読んでいて面白い反面、もし自分に子どもがいたら「こんな授業を受けさせられるのかよ」と不安になるだろうなと思うのだった。

ジュリオ・トノーニ、マルチェッロ・マッスィミーニ『意識はいつ生まれるのか 脳の謎に挑む統合情報理論』

意識とはなんなのか、脳のどこにあるのか、意識が「ある」という状態はどこからどこまでを意味するのか? それすらもいまだにはっきりわかっていない、ということがわかる本(ややこしい)

自分たちが普段イメージしているものと、実際の脳の中身は全然ちがうんだなぁと驚く。ニューロンの大半は小脳にある、でも小脳は意識とはほとんど関係がない、とかさ。

意識って、実はけっこう遅いって言われるじゃないですか。意識するよりも先に体が動いてたりして。なんで意識が遅い(発生に時間がかかる)のか。それは意識というのが、多様な情報を高いレベルで統合するからだそうです。そのために時間がかかる。

村井章介『世界史のなかの戦国日本』

『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』で取り上げられていた本。というだけあって、知らなかった話がいっぱい。それとも今の小中学校では教わる内容なのかな?(そうでもなさそう)

戦国時代の日本がアジア諸国と貿易のネットワークでつながっていたこと。日本に鉄砲を伝えたポルトガル船は、中国人の密貿易商の船だったこと。ポルトガルやムスリムの商人など、さまざまな人々が東南アジアの海の交易を利用していた。鉄砲もキリスト教も、華僑によるアジアの交易ルートがなければ日本には届かなかった。

Olivia Koski、Jana Grcevich、Guerilla Science『Vacation Guide to the Solar System: Science for the Savvy Space Traveller』

太陽系の本を読みたいなーと探していて見つけた。『太陽系観光旅行読本』の原著。日本語訳は未読だが、これなら英語でも読めそうだなと挑んだ。

実際、英語だと小説よりもこういう本のほうが読みやすい。各惑星ごとに章立てされていてわかりやすいし、登場する単語も「軌道」「水素」といった感じである程度決まっている。NASA提供のカラー写真もたくさんあった。

「洞窟探検が好きな人なら、この星は楽しめるぜ」とか、アメリカっぽい観光案内もあって興味深い(辞書を引いたら、この単語はアメリカ英語だよって出てきたりする)

田家康『気候で読み解く日本の歴史 異常気象との攻防1400年』

奈良時代から江戸時代まで、けっこう長い。いつの時代も、気候変動に対していかに食糧を確保するかという問題があったし、施政者はそのための試行錯誤に悩み続けている。

思っていたよりも幅広い内容だった。昔の気候を調べる方法もいろいろと紹介されている。たとえば文献の表記から、雨乞いがどれだけ多かったか、桜の開花時期がどれだけ遅かったかを読み取ることができるのだ。他にも日本に限らず、世界各地で「特定の湖に生息する生き物の記録から過去の気候を知る」みたいな論文が紹介される。

伊勢神宮が20年おきにすべて建て直されるのは、古代の掘立柱建築の様式を受け継いでいて柱が腐りやすいため。戦国時代には戦争奴隷の人身売買が行われていて、九州で捕まった奴隷は『世界史のなかの戦国日本』で描かれた交易ルートにのって海外に売られた……この本も面白い話が満載だよ。

歴史的なサイクルからみれば、次の日本の凶作は2030年代〜2040年代。ただ、温暖化などの要素も入りこんでいるので、このサイクルもどれだけ当たるかはわからない。

松原始『カラス屋、カラスを食べる 動物行動学者の愛と大ぼうけん』

『カラスの教科書』でおなじみ松原さんのエッセイ。カラスに限らず、いろんな動物をめぐるエピソードが満載。研究論文の裏側には、こんな汗と涙が流れているのだ……。

研究者、特に野外での研究を余儀なくされる分野の研究者は、とにかく体力勝負なのだなぁと実感してしまった。

セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ『誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性』

人は嘘をつく。他人だけでなく、自分に対しても嘘をつく。アンケート調査でも嘘をつく。でも検索窓には本音をこぼしてしまう。

たとえばGoogleの検索データが明らかにするのは、トランプ大統領が立候補するよりもずっと前から、アメリカでは黒人に対する差別的な検索が多数あったということだ。

この本ではGoogleの検索データに限らず、将来の偉大な競走馬を見抜く方法や、フロイトの理論が誤っていることの証明、怒れる人には説教するよりも怒りのもとに対する新たな情報を与えたほうが効果的であることなどを、さまざまなデータの統計から導いている。

ダンカン・ワッツ『偶然の科学』

未来を予測するって、ぶっちゃけ無理なんじゃね?という気持ちになる一冊。

本当に、ほんのちょっとしたことで結果が変わり、連鎖反応的に未来は変わる。それを人々はあとになって「この作品がヒットしたのはこういう理由があったから」と言っているだけなのだ。

未来を見ることはできない。未来を知ることはできない。すべては偶然だから、何がどうなるか、わからない。それを、さも必然の因果関係があるかのように解釈してしまうのが、我々の持つ「常識」である。

「常識」は日常生活を送る上では(たとえば地下鉄に乗る時のふるまい方など)非常に役立つ。しかし、未来を予測する役には立たない。ヒット商品の予測、政治家の立てるプラン、どちらの役にも立たない。しかしなぜか我々は、そこに「常識」を用いようとするのである。

白井恭弘『外国語学習の科学 第二言語習得論とは何か』

母国語以外の言語を身につける際は、どのような学習法をとればいいのか? こういう研究もあるんですねぇ。

大量にインプットすること(例:多読)が大事だけれども、自分の理解できる内容、自分にとって興味のある内容が望ましい。そして、インプットだけでは身につきにくいので、アウトプットやリハーサル(脳内でしゃべる練習をすること)も必要である。

ただし、アウトプットの際は我流の変な発音や文法が身についてしまわないように注意すること。

リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』

未来は長寿化が進み、若い世代ほど100歳生きるのが当たり前の時代を生きる。昔ながらの「教育 → 労働 → 引退して余生をすごす」というライフスタイルはそぐわない。食いつなぐために自然と働く期間は長くなる。

しかし、変化の激しい現代で何十年も働き続けようと思ったら、いずれ自分のスキルは古くなってしまう。だから何年か働いたあとは何年か学んで、また働く……という変化に富んだ生き方をするようになるだろう、と語る本。

自分はさっさと引退してのんびりしたいのに、80代まで働き続けないといけないなんて絶望的だと思った人もいるかもしれない、でもそんなことはないんだよ、と著者は語りかける……。

いや、割と絶望したんだけど。

川内有緒『バウルの歌を探しに バングラデシュの喧噪に紛れ込んだ彷徨の記録』

国連職員の仕事を辞めて、ぽっかり暇になってしまった著者。ふと「そうだ、バングラデシュにはバウルという無形文化遺産の吟遊詩人がいると聞いたことが……」と思いつき、同行者を募り、詳しい人がいないか周りに聞きまくって、バングラデシュへ2週間の旅に出る。

恥ずかしながらこの本を読むまで、バングラデシュの独立の経緯を知らなかった。タゴールが東ベンガル(バングラデシュ)出身だったとは……。

バウルの情報を求め、行き当たりばったりに進む著者一行。バウルとは吟遊詩人ではなく、宗教を超えた修行者たちのことだった。師から弟子へと口伝で続いてきた歌と教え。歌には隠喩や言い換えがこめられていて、ただ聞くだけでは背景にある意味がわからない。

でも、出会ったバウルたちは皆、最初から答えを教えてくれているのだ。あまりにもシンプルすぎて「もっと高尚でそれっぽい答えを……」と思っていた著者(そして読者)だが、最後にうわーっとそれがつながる。

余談。面白いけど、いまいち自分の理解が及ばなかった本。

Jorge Cham、Daniel Whiteson『We Have No Idea: A Guide to the Unknown Universe』

宇宙の本を読もう!と軽い気持ちで手を出したら、宇宙というより物理学の本だった。日本語で読めばよかったかもしれん……。

※日本語訳は『僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない この世で一番おもしろい宇宙入門』。ただし、日本語訳のKindle版は漫画と同じ固定レイアウトになっている模様。→追記。リフロー型でした。

章のタイトルは「時間って何?」とか、子どもに聞かれたら答えに窮するタイプの質問ばかり。最初は『宇宙が始まる前には何があったのか?』に出てきた内容と近かったので面白く読めたんだけど、質量や次元のあたりから難しくなってきた。わかる部分とわからない部分が混ざり合っちゃう。

しかし、わからないことははっきり「わからない」と書いてるところが好感の持てる一冊。あとジョークが多い。真顔でふざけてる感じ。

そんなわけで、小説と漫画を除外してもまだこんなにたくさん面白い本がありました。2019年もせっせと読みまくる所存です。来年は節約しないといけないけど……。

では、小川一水の大長編SF小説最終章となる『天冥の標Ⅹ 青葉よ永遠なれ PART1』が待っておりますので、これにて失礼します。皆様よいお年を。


追記:2019年版は下記。


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