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忙しいデザイン学生の為の10分で読める突破するデザイン(意味のイノベーション)

突破するデザイン(著者:ロベルト・ベルガンティ/ 翻訳:八重樫文・安西洋之)は2017年に邦訳版が発売された本で、前著デザインドリブンイノベーション(発行:脇坂康弘)からさらに深められた「意味のイノベーション」の特に実践にあたってのノウハウがまとめられた本だ。

今回は書籍に出てくるような詳細な事例やポエティックな文章は控えめに、「意味のイノベーション」という言葉の本意や実践の為の思考法に関しての内容を中心に自分と同じ学生も読めるような簡単な文章としてまとめたい。

アイディアにあふれる世界の中で

意味のイノベーションはこれまでのアイディアやイノベーションの為の思考法とはかなり違う。この手法はユーザーの問題や課題の解決ではなく、ユーザーに新しい意味を与えることを目指す。これは従来型のデザイン思考とは決定的な差である。意味というのは目的とも言える、ユーザーがプロダクトを利用する目的を変えることで競合との絶対的な差を生み出し、新たなニーズを作るというのがこの思考法の特徴である。


ろうそくと意味

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「母さん、ろうそくある?」「ええ、一本あるわよ。」リビングのどこかから母の声が聞こえてくる。「玄関のドアの脇にあるキャビネットの一段目に、マッチと一緒にあるわ」暗闇の中をゆっくりと慎重に、ドアに向かって私は歩を進めた。1980年代諸島のイタリアでは突然の停電は珍しいことではなかった。(突破するデザイン, P53)

書籍の中で特に象徴的な事例として上げられているのが「ろうそく」である。電気がない時代、ろうそくというのは明るさであり暖かさの為に使われる製品だった。だが現代になり、電気は充分に供給され、エアコンやヒーターが部屋を暖めてくれる家庭が増えると、ろうそくは以前の目的とは異なりくつろぎや精神的なぬくもりを感じる為に使われ出した、まさに利用する目的(意味)が変化したのである。その結果としてろうそく業界は息を吹き返し減少どころか成長する市場へとなった。これが意味のイノベーションが起きることの効果である。ここでは、そういったアイディアが生まれるプロセスを説明していく。


その1.個人が解釈をすること(内から外へ)

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新しい意味とは、別の言葉で言えば「解釈」であり、最適化ではない。人々が愛するであろうモノゴトの解釈なのである。(突破するデザイン, P135)

使う目的が変わると意味が変わりそれがユーザーの隠れた欲求を満たすことで多くの人が求めるプロダクトができる。そのアイディアを生み出す為に必要なことは個人の価値観や先入観、そして、それぞれの解釈である。現在の製品は一つの大きな方向性に則って行われていることが多い、例えばスマートフォンは以前まで小型の電子機器であり、メールや仕事の為の道具というものさしで計られていたが、ここに楽しさという別の解釈を与えたのがiPhoneである。このような個人の解釈から始める内から外へのデザインプロセスこそが意味のイノベーションの一つの大きな特徴である。多くのユーザーの意見や市場の動向ではなく、一人の個人的なビジョンから意味のイノベーションのプロセスは始まる。


その2.解釈に批判を受ける(スパーリング)

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意味のイノベーションでは、アイディアづくりは重要な要素ではない。私たちは、これ以上アイディアを必要としていない。私たちはより良い解釈を必要としており、批判精神はそこに到達する為の方法である。(突破するデザイン, P164-165)

批判というと否定的な意味で捉えられがちだが、否定・肯定という話ではなく、物事をより深く理解する為の行動である。意味のイノベーションにおいて批判は重要な要素である。そこには二つの大きな理由が存在している。まず一つは個人の解釈から始める内から外のプロセスにおいて、個人の解釈を他者の批判にさらすことでより深く解釈をし、その基礎となっている部分にまで辿り着けること。(例えば、人々は火を見ることで安らぎを得れるなど)そしてもう一つの理由が不明瞭なビジョンを共通の仮説へと成長させることだ。ビジョンや解釈というのは個人のものであり、生まれてすぐは弱く、脆い。それを成長させる為に他者の視点を衝突させることでよりビジョンが具現化していく。筆者はこれをボクシングのスパーリングにたとえている。

スパーリングパートナーはあなたの方を軽々と叩かないで、ハードパンチで応えてくる。それはあなたをノックダウンしたいのではなく、あなたを強くしたいからだ。あなたにはそれが必要である。そうでなければ、もし筋肉隆々のボクサーに出会った時、打ちのめされてしまう危険がある。


03.共通のビジョンを持つ人たちと関わる(ラディカルサークル)

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ラディカルサークルは意味のイノベーションにカギとなる素材をつなぎ合わせていき、画期的なビジョンの想像に向けた効果的な道筋である。私たちの最初の仮説を育てるのに必要であり、直感のかけらを強力なビジョンに変化させる。(突破するデザイン, P181)

スパーリングによってビジョンを育てるには多くの知識を持つ集団から批判を受けることが必要だ。その様な集団をラディカルサークルと呼ぶ。ラディカル(急進的な)サークル(小規模の団体)では同じ目的を共有する人物が集まり、「建設的な批判」と「精神的励み」をお互いに与え合う。新しいビジョンやアイディアは多くの場合、疑われたり、馬鹿にされたりしてしまう。しかし同じ目的の仲間がいることで、自分のアイディアに確信を得ることができプロジェクトを進めることができる。さらにその様な仲間からは高い専門性と知識に基づいた質の高い批判を受けることができる。このプロセスを踏むことで個人的な直感は共有される解釈となる。

04.さらに多くの解釈者に伝える(解釈者のラボ)

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内から外へのプロセスが進めばより多くの人にビジョンを解釈してもらう必要がある。なぜならば多くの人にとって新しいビジョンは認識はできても意味を理解することが難しいものだからだ。

2人が街のブロックの先まで歩いていくと、彼らは歩道を占領している大型の屋台の一つに出会った。ホロウィッツは、陳列品や容器がはみ出し、屋台の周囲に広がっていることに気づく。歩調を緩め、屋台をそっと避けた。-中略-一方フレッド・ケントは立ち止まり写真を撮って「屋台をもっとたくさん街に出せばいい。そうすれば、もっとみんなゆっくり歩くようになる。それが社会である。それが街のありようである」と称賛して言った。2人は同じもの、つまり屋台を見た。しかし、違う意味を見ていた。(突破するデザイン, P279)

同じ一つのビジョンを見てもそれぞれに解釈されることは違う、しかしここで重要なのはビジョンが示されることでそれまで関心もなかったような事柄にも、それを見た人たちは解釈を始めることである。例えば、この文章をここまで読んだ人の中にもろうそくについての解釈を始めている人がいるかもしれない。優れた解釈者は仮説に対して深い問いを与えビジョンがより多くの人に届く為の調整を助ける。こうしてユーザーやステークホルダーも伝わる意味が作られる。

05.まとめ


ここまで、「意味のイノベーション」に関する、内から外への一連のプロセスを辿ってきた。新しい意味を生み出すには一人の描くビジョンを批評によって育てていくことが必要なのである。まとめとしてここまでのプロセスを図にして重要となる思想を並べた。

名称未設定-2_アートボード 1 のコピー

01.「広さ」ではなく「深さ」
多くの人の常識ではなく個人の解釈から始める。

02.「量」ではなく「質」
初めから多数の意見を取り入れるのではなく質の高い批評を受ける。

03.「最適」ではなく「必然」
徐々に集団へ伝えていく過程でも、いくつもの選択肢を探すのではなく一つの愛せるものごとを生み出す。

04.多くの人に愛されるビジョンへ
個人の解釈をより共感されるものへ、様々な分野の解釈者を巻き込みながらユーザー・社会へ浸透させていく。


ネットで見れる参考資料:


以上、書籍では豊富な事例や、引用と共により詳細なプロセスについても書かれています。興味を持っていただけた方の為に二歩目を助ける為の資料のリンクを貼っておきます。

自分がこの本を読み始めたきっかけのNoteです(ほな、最初からこれ読んだらいいやん、というご意見はごもっともです。)

また、画像などは保存元のリンクと繋げていますがもし不具合、不都合などありましたら、ご指摘ください。

以上です、ここまで読んでいただきありがとうございました!

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