日記2022/12/18

今日は以下の本を読んでいた。

小説風で繊細な文体である。この本を読んでわかることは、「生成とは動的平衡の流れである」ということに尽きると思う。

生命の定義として広く知られている考えの一つに、代謝を行うものだ、とする考え方がある。

マウスを用いた研究で体内のタンパク質は生成される側から分解されることが分かる。この生成と分解の営みによる淀みともいうべきものが生物なのだという。生命とは代謝の持続的変化であるとシェーンハイマーは言い、生命とは動的平衡にある流れであると筆者はいう。

ジョージパラーディーが小胞体の振る舞いを観察した。小胞体とは細胞内にあって消化酵素を合成する場である。その名の通り気泡のように細胞内に存在するものであり、筆者はそれを風船に例えて説明して、細胞の内部の内部は外部だと形容する。すなわち細胞膜が風船の膜だとすると、その膜が内側に窪んで内側に向かう瘤のようになり、それを捻り切って出来るのが小胞体である。この小胞体の生成過程において細胞の内部は外部と接しておらず、無用な相互作用を排除している。

終盤は筆者の研究したGP2というタンパク質の働きに焦点が当たる。GP2は小胞体(分泌顆粒)の生成にかかわっていると目される。そこでGP2を作る遺伝子をノックアウト(壊して機能不全にすること)したマウスを産生するも、マウスに異常が見られない。この奇妙な結果に対する結論が、また生命とは動的平衡の流れだとする筆者の言葉に返ってくる。すなわち、生命とは時間的な存在なのだという。発生過程における特定のタイミングで必要なものが欠けていても、それを補う作用が働き、結果として異常は起こらない。一方で成体となった後に不完全なタンパク質を投与すると異常が起こる。

全体としてノンフィクションの小説であり、筆者がハーバードで体験したことが克明に記されている。言葉選びも純度が高く引き込まれる。熾烈な研究競争の様子が随所で語られる。PCRの誕生秘話や、DNAの発見にまつわる情報戦(?)も語られる。生命感が変わる一冊である。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?