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読書「同志少女よ敵を撃て」

独ソ戦を題材とした小説である。
主人公の村娘セラフィマが村を焼かれ、復讐を誓い、狙撃手を志すところから物語は始まる。

この本にはセラフィマと志しを同じくする複数の女性狙撃手が登場する。そして彼女たちがそれぞれの「敵」を撃つ。お前は何のために戦うのか?という教官イリーナの言葉が胸に刺さった。彼女たちの「敵」は必ずしもドイツ兵ではない。何のために戦うのかは、彼女たちの信念として現れる。

戦闘シーンが克明かつハイテンポに描かれている。精緻な心理描写とあいまって迫力があり、戦争の凄惨さが伝わってくる。
そして、主人公セラフィマの復讐は意外な結末を迎える。そこではセラフィマの心の移り変わりと友情、そして戦争犯罪である女性暴行をもう一つのテーマとして、ラストに結実する。

本書を読んで勧善懲悪の悪とは何かを考えた。その場の空気に流されたのだとしても、悪は悪である。”悪人の真似とて人を殺さば、悪人なり。”という言葉もある。弱い心も悪になり得る。強い心を持たねばならない。甘ったれたことを抜かすな!ということだと思う。お前たちは何のために戦うのか?と問うイリーナの言葉が反芻される。

本書には実在する伝説的な女狙撃手であるリュドミラ・パヴリチェンコも登場する。本書は彼女を題材に書かれたのではないかと推測する。

本書は2021年11月に発刊されたものだが、その直後である2022年2月に現実でウクライナ侵攻が始まったことは皮肉である。早い終結を願うばかりである。

本書はアガサ・クリスティー賞を受賞していたのでミステリ小説だと思って読み始めたが、違った。
しかしラストではミステリ小説以上の伏線回収がされており、圧巻だった。

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