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私の演劇の記憶-FRAGMENT- 草野峻平

『FRAGMENT』の主人公が俳優であることにちなんで、実際に俳優である出演者一人一人の、演劇に関する「記憶」を深掘りするインタビュー企画、「私の演劇の記憶-FRAGMENT-」。
俳優として生きている人の考えを「断片」を集めていくと、
自ずと『FRAGMENT』という作品につながっていくのかもしれません。

二人目は第一回に引き続き、東京夜光の劇団員、草野峻平さんにお話をお聞きします。


今回の「FRAGMENT」は俳優含めた、表現者が出てくる物語ということで、出演者の皆さんにご自身のことをお聞きしています。そこでまず、草野さんの演劇のお話をお伺いしたいのですが、草野さんがご観劇されてきた中で最も印象的だった作品はなんでしょう?

これは稽古中、本読みの段階で役に関してのディスカッションの時にみんなにも話したんだけど、文学座の「リア王」(作:シェイクスピア 演出:鵜山仁)。江守徹の復帰作だね。

それはどんな体験だったのでしょう?

病気、それも大病を患った後の復帰作だったから、江守徹どんな感じなんだろうって思って見に行ったんだけど、やっぱり、申し訳ないけど、病気の影響がもろに出ちゃってて。喋りとか、体も全然動かせないみたいだったし、っていうか、どうしても病人が立ってるっていう印象が拭えなかった。

ここまで聞くとネガティブな印象ですが、、、。

そうなんだけど、なんかね、周りの人たちがなんとかそれをフォローっていうか。まぁフォローっていう言い方は違うのかもしれないんだけど、でもとにかく、そんな江守さんを中心でどうにかこの作品を完成させるんだって気持ちっていうか、気概を感じたんですよ。そんな思いが舞台上に満ちてて、それぞれの役者さんに溢れてる感じがして。
だから単純にストーリーを追うっていうか、物語を楽しむっていうのとはまた違う味わい、良さみたいなのを感じたかなぁ。

それは感動と呼ばれるものなんでしょうか?

うーん。感動といえば感動なんだけど、それともまた少し違う気がして。すっげぇっていう。すっげぇいいもん見たなっていう。
それを見たのが26とかだったかな。

ということはその体験の前にすでに俳優さんとして活動は始めていたんですね?

じゃあ僕の演劇の歴史を言おうか(笑)。

お願いします(笑)。

俺はね、両親がね、役者やってたんですよ。まぁ結婚する時に二人とも引退して、普通に働き始めて。でも俺が小学校に上がって、手がかからなくなったら、また趣味として地元の市民を集めて劇団みたいな活動を立ち上げたのね。で、その公演の時に小学生の俺に「お前出ろ」って。それが俺の初舞台(笑)。

ずいぶん早いデビューですね!それからも活動は継続されて?

いや。中高は全く。大学に入るまではほとんど何もやってない。観劇もしてないね。

あれ? でも明治大学の演劇学専攻に入られましたよね?

そうなんだよ。なぜか。全然演劇勉強する気なんてなかったんだけどね。
これはちょうどこの前おふくろに言われて思い出したんだけど、俺の大学探しの時におふくろがたまたま明治のパンフレット見てて、「へー、演劇学専攻なんてのがあるのねー」って言ったんだって。そしたら俺がバッてパンフレット取って、「あー、俺ここ行こ」って言ったらしい(笑)。確かその時、全然演劇のことなんか忘れてたのに、進路選びで「あ、俳優。そうか、その手があったか」って思った。深いことなんか考えてなかったね。

そんなエピソードがあったんですね。もうその時にはプロになろうと思っていたんですか?

そうといえばそうなんだけど、少し違くて。演劇学専攻の人たちはみんな役者になるもんだと思ってたのよ。そしたら3年になって周りが就活し出して、あれあれあれって(笑)。全然覚悟とかがあったわけじゃないけど、就職するのもちげーなって思ってたから、言い方は悪いけどずるずると続けてた。

ではいつ頃からプロである自覚というか、そういったものが生まれたんでしょう?

そうだねぇ。色々あるんだけど、きっかけで言うと、阿佐ヶ谷スパイダースの『あかいくらやみ〜天狗党幻譚〜』(作・演出:長塚圭史)かなぁ。俺、それのお手伝いで、舞台上で黒子をやったのよ。その現場で、初めてプロの人たちの仕事ぶりを見て、触れて、「あ。俺、今のままじゃダメだ」って、「ちゃんと、勉強しなきゃ」って思った。それで、その時いた劇団を抜けさせてもらって、その『あかいくらやみ』で俺が一番かっこいいと思った横田栄司さんに憧れて、それまで文学座の芝居は見たことなかったんだけど、「よし、文学座入ろう」って研修所に入った。

俳優活動をしている中で重要なターニングポイントがあったんですね。


そんな草野さんが思う俳優をやっていて嬉しい瞬間というのはどんな瞬間なんでしょう?

親父とね、よく話すようになった。芝居の話をするとね、親父がすごい嬉しそうなのよ。俺が出た舞台の話とか、親父が楽しそうに喋ってて。別に喋らない家だったとかそういうわけじゃなかったけど、なんか「あ、親父とこういう関わり方ができるんだ」って思った。

演劇を抜きにして、現実的な父と子という関係性があるわけですけど、演劇という虚構を介することで、現実での距離がより近くなるっていうことでしょうか?

かもしれない。そう思うと、おふくろが自分の高校時代の仲間とかを連れて俺の舞台を見にきてくれてて、その中で毎回楽しみにしててくれてるって言ってくれてた人がね、亡くなっちゃったのよ。なんかそれがずっと心に残っててさ。ちゃんとやらなきゃなって。そういうのがたくさんある。なぜか気に入ってくれてよく使ってくれた年上の演出家とか、なぜか期待してくれてた上の世代の俳優とか、そういう人たちとの関係がたくさんあって、俺は演劇を辞めてないのかなぁって。もう亡くなっちゃってる人もいるけど、そういう人たちと関係してきたっていうのは、嬉しいことだし、演劇がなかったらなかったよね。

そういった意味で草野さんにとっての演劇は「人と関係していくためのもの」という側面があるのかもしれませんね。

それが結構大きいかもしれない。江守さんの『リア王』で心が動いたのもそういうことのなのかも。

ではそれを踏まえてですけど、これからの草野さんはどんな俳優になっていきたいのでしょう?

売れたいけどね(笑)。でもこの文脈でいうなら、すごい演技をして、それこそ俺が憧れたような俳優さんたちみたいな演技をして、そうすればより多くの人の目に触れて、多くの人の人生に関係していける。
それこそ『FRAGMENT』の中で少女の日記が出てくるけど、それが書かれた理由の一つには周りの人が亡くなっていく空虚感と焦りみたいなものがあると思ってて。エゴイスティックにいうなら、誰かに覚えておいてもらいたい、記憶に残りたいっていうものがあるのかもしれない。そういう意味で俺にも共通している。

今少しだけお話にも出ましたが、では『FRAGMENT』に関して、ご自身の役・崎野武に関してどんな印象をお持ちでしょう?

好きだと思う。付き合いづらいやつなんだけど、真面目で、いいやつ。武は俳優を辞めるって言って、それは俺とは全く違うんだけど、いや、そうでもないのかな。今まで一緒に役者やってて、辞めてった人たちがいて、寂しいけどそういう演劇をやめるっていう決断にリスペクトもある。そういうのと重なる。自分もそうなってたかもしれないし、いや、分かんない。分かんないけど、武の感じは分かるし、愛せる。

どんな人に『FRAGMENT』を見てほしいでしょう?

全ての人に見てもらいたいんだけど、強いていうなら上の世代の人かなぁ。どう思うのか聞きたい。僕たち戦争の当事者じゃない世代の作ったものがより戦争に近い世代の人たちの目にはどう映るのかなって。それと同世代ね。同じ世代の人たちは、こうなったときにどうするっていうのを、FRAGMENTをテーマに話したい。


以上がインタビュー本編になります。
劇団東京夜光『FRAGMENT』、吉祥寺シアターにて上演いたします!

劇団東京夜光 公演
「FRAGMENT」
作・演出:川名幸宏
2023年、戦争が起きたら、俳優はどう生きるか。
その記憶は、誰の真実か—
2022年の本多劇場公演から1年半。
劇団東京夜光は”劇団とはいったい?”に勝手に向き合いながら1年間の創作を積み重ね、
劇場のある吉祥寺の1944年と2023年を繋いでみます。

1944年、B29東京空襲の最初の標的となったその場所に、2023年、あまりにも先が見えない 30 代俳優の男女ふたり。 広大な原っぱのベンチに座って、男の雑なプロポーズを皮切りに始まる痴話喧嘩。
その刹那、航空機の轟音。
地下壕に逃げ込んだ人々は、戦中の少女の日記を見つけ、“少女の記憶の真実”をとりとめもなく探しはじめる。
【出演】
丸⼭港都
草野峻平
笹本志穂(以上劇団東京夜光)

永⽥紗茅(柿喰う客)
阿久津京介(もあダむ)
堀⼝紗奈(劇団4ドル50セント)
⾓⽥萌果(劇団⻘年座) 
⽥中博⼠(東京タンバリン)
都倉有加(C-PLUS)
ししどともこ
中⼭⿇聖
【チケット料金】
一般前売=5,000円 U-25前売=3,500円
一般当日=5,500円 U-25当日=4,000円
アルテ友の会会員=4,500円(武蔵野文化生涯学習事業団でのみ取り扱い)
*全席指定・税込*U-25は当日引換券のみでの販売。当日受付にて要証明書提示《チケット取扱》
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【お問い合わせ】
劇団東京夜光
info@tokyoyako.com


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