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「囀る鳥は羽ばたかない」について 第46話が私に与えたもの

 今回は考察ではなく、個人的な感想になります。
 第46話についての考察はこちら→その1その2


 第46話の衝撃はあまりに大きく、私の心を揺さぶった。でも、そのおかげで、私は望んでいた答えの一部を得た気がした。

 「囀る」に出会って以来、私はずっと考えていた。
 この話は一体どういう結末を迎えるのだろう。矢代と百目鬼がどうなったら、私は満足するのだろう、と。


 私は矢代の複雑な内面が大好きだった。百目鬼のことを好きだけど、それを表には出さないようにしていて、もちろん恋人関係になる気はなくて、でも時々「肩貸せ」とか「膝枕してくんねーの」とか言って甘えてしまう彼が。
 5巻で百目鬼とセックスした時だって、矢代は百目鬼の情熱と優しさをちゃんと感じ取っていたと思う。
 でも、「俺と言う人間を手放さない」ために、必死で百目鬼と別れる矢代が可愛くて、切なくて好きだった。6巻で百目鬼にひどいことを言ったり、「頭打って憶えていない」と嘘を言って突き放したりしたのも、矢代なら仕方がないかなと納得していた。
 そう簡単に百目鬼を受け入れられるような性格ではないのはわかっていたし、好き合っている矢代と百目鬼がなかなかくっつかないもどかしさこそが、「囀る」の魅力でもあるのだから。
 だからこそ、物語が6巻で終わらず7巻で新展開を見せた時、この二人が一体どうなってしまうのかわからなくて、私は混乱していた。

 「囀る鳥は羽ばたかないの結末を予想する」などという不遜なタイトルをつけて、本当はあまり文字にしたくなかったのに、二人のうちどちらかが死ぬんじゃないかとか、ずっとずっと心配していたことをあえて書いたのも、「そんなことない。二人は死なないし、こういう形でハッピーエンドになる」と否定してもらいたかったからだ。
 すぐに悲観的な思考になる私では思いつかないような「囀る」の展開を誰かに教えて欲しかった。
 こんなにも結末が気になるのは、着地点がわからないまま読み続けるのが怖いからだ。
 どこに行くのか不明な状態で、物語についていくことができないほど、私は「囀る」を愛している。
 
 7巻になってから百目鬼が何を考えているのかさっぱりわからないし(すべての言動に矢代への愛があると思いたいから思い込んでいるけれど)、昔はあれほどおずおずと触れていた矢代の髪を手荒に引っ張るし、ついに46話では「誰でもいいのかと思ってました」とかひどいこと言って矢代は泣いてしまうし、奈落の底に突き落とされた気分だった。
 でも、このショックから立ち直るために、夜も寝られず「囀る」について考え続け、ヨネダ先生のインタビューを読み直したおかげで、今まで見えなかった光が見えた。


 ヨネダ先生が「囀る」で描こうとしている物語の本質は、まだこの先にあるのだ。


 5巻で百目鬼とセックスした時、矢代は「俺を壊すな」と必死で抵抗していた。
 この場面を読んだ時、百目鬼の愛をついに矢代が受け入れるんじゃないかと一瞬期待したけれど、百目鬼と一つになった瞬間に矢代の脳裏に浮かんだ虐待の過去によって、矢代と読者の陶酔は粉々に砕かれてしまう。

「ああ どうして今」(5巻第25話)

「ここで、これ⁉」と驚いた。そして同時に、矢代の心の傷の深さを知った。
 この問題を乗り越えないと、彼は幸せになれないと思った。

 結局、6巻までの矢代は、百目鬼との関係によっても変わることができなかった。
 彼が変わるためには、今(第46話以降)の苦しみが必要なのだ。
 これから百目鬼とセフレ関係になると、矢代は体だけの繋がりに満足できなくなっている自分の変化を嫌でも自覚することになるだろう。
 その中で、百目鬼を愛している自分を受け入れ、今まで愛のないセックスを求めていたのは、虐待された自分の心を守るために「俺はこれが好きなんだ」と思い込もうとしていたからなんだと気づいて欲しい。
 矢代がトラウマを乗り越え、人を愛せるようになってほしい。そして、百目鬼と二人で生きてほしい。
 それが、私がこの物語に求めていたことだとわかった。

 複雑で矛盾を抱えているのが矢代の魅力である上に、矢代の心の奥の傷があまりにも深いので、私は矢代がどうなるのか心配だった。
 ずっと誰かに「大丈夫。矢代は幸せになれるよ」と言ってほしかった。自分の頭の中でなんとかハッピーエンドにしようとすると、矢代の性格や「囀る」の世界観と整合性のない、ありきたりで都合のいい展開しか想像できず「そんなの『囀る』じゃない」と受け入れられなくて、どうすれば矢代が幸せになれるのか思いつかなかった。「どちらかの死」以外に二人を結びつけるものはないのではないかと思っていた。


 46話の衝撃によって、私は暗い海の底に沈み、そこから這い上がることで、逆に矢代は必ず幸せになれると信じることができるようになった。
「本誌を追うのをやめようかと思うくらいつらい」と言う方がいらっしゃるのも無理はない展開だったし、私も一瞬そう思いかけたけれど、今ではむしろ、これから矢代が、昔のように自分に好意を示さず、他に女がいる振りをしているつれない百目鬼にどんな態度を見せるのか楽しみになってきた。
 私は、こんなにも愛せる漫画に出会えて幸せだ。
 第47話が発売されるまでの間は、全話レビューを目指して1話ずつ感想を書いて待とうと思う。

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