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「囀る鳥は羽ばたかない」について 第46話 感想

第46話

 Amazonが発売日にihr HertZを届けてくれなかった(結局書店に行って買った)せいで、待ちきれずツイッターで皆様の感想を読んで覚悟を決め、心に鎧をまとって読んだおかげか、予想より心を抉られずに済んだ。
 もっと百目鬼が矢代を傷つけるような言動をしているのではないかと心配していたのだが、すべての発言に矢代への愛が隠れているように私には思えた。

第45話の終わりに

「じゃあ かまわないですよね。あいつじゃなくても」

と言って、井波と遊ぼうとする矢代を百目鬼が強引に止めた時、私は「まさかこのまま二人がするとは思えない。矢代が『嫌だ』と断るだろう」と考えていた。(第45話感想
 それはただ私の願望で、私はそう思いたかった。今の関係のまま、しないで欲しいと。
 ここで矢代が断れば、オートロックのタワマンに百目鬼が押し入ることはできないだろうから、大丈夫だと思っていた。

 でも、ヨネダ先生はそんな緩い展開にはしなかった。さすが。
 発売日前日にツイッターでチラ見せの1コマを見て、衝撃を受けた。

 二人が、ベッドの上にいる。そして、矢代のスーツに手をかけた百目鬼が「脱がないんですか?」と言っている。

 この絵を見た時ですら、私はまだ「矢代が拒絶すれば大丈夫。拒絶して!」と願っていた。百目鬼が、嫌がる矢代をレイプするとは思えないから。(そんなことになったら、もう無理だ)

 「離せ」と言いながらも矢代は百目鬼を拒絶せず、矢代の住んでいるタワマンの部屋に百目鬼と一緒に入ることになる。エレベーターの中で矢代が百目鬼とキスする妄想をするので、ああ、すっかり百目鬼のことを好きになっているんだな…と思った。矢代は百目鬼とキスしたいのだ。
 36階の部屋のカギを矢代がうまく開けられない。右目が見えないのと、緊張しているからなのか。(スマートキーにしたら楽だよ、と教えてあげたい)
 6巻まで住んでいた西新宿の低層マンションから引っ越したのはなぜだろう。前の部屋の方が広そうで良かったような…?

ベッドに直行する二人。

百目鬼「脱がないんですか?」
矢代「やりたきゃさっさとやれよ」(投げやり)
百目鬼「俺では不足ですか?」(俺じゃだめですか? と言っているように私には見える)
矢代「俺にだって選ぶ権利くらいある」
百目鬼「そうですか。誰でもいいのかと思ってました」(これは嘘だな、と思った。「The clouds gather」Blu-ray&DVD特典漫画参照)

矢代の服を脱がせる百目鬼。

矢代「俺は昔から勝手なんだよ。知ってんだろ」(勝手なところが素敵です♡)
百目鬼「知ってます。少しも変わらなくて苛々します」

 私には百目鬼のこのセリフ、「あなたが好きなままで、少しも変わらない自分に苛々します」あるいは「少しも変わらないあなたが好きです」と言っているように見える。なぜだろう。百目鬼が怒った顔をしていないからだろうか。

 第46話を読んでまず思ったのは。二人がセックスしなくてよかった…。ということ。
 キスも、フェラも、挿入もしていない。百目鬼が矢代の射精を手伝っただけ。(3巻第13話の時のように)
 5巻の時のようにちゃんとセックスするのは、気持ちが通じ合ってからにしてほしい。お願いだから。

 矢代の「どうせ…」は「勃たないから」か「イカないから」に続くのだと思う。おそらく、5巻で百目鬼とした後、矢代は勃起障害か射精障害になったのだろう。受だから、勃たなくても挿入されることは可能だし、井波や他の男とヤルときに勃たな(イカな)くても、「(平田との事件で)頭打ってからこうなった」と言い訳すればいいだろうし。
 百目鬼が女とするところを妄想した矢代の「こんな簡単なことで…」は「勃つんだ/イクんだ」と続くのだと思う。矢代は百目鬼の初体験の話の時(2巻第5話)といい、百目鬼が他の女とセックスするのを想像するのが好きだなと思う。性癖?
 ちょっと百目鬼に触れられて、しごかれただけであまりに早く矢代が達したので、百目鬼が「溜まってたんですか?」と聞く。
 矢代は「…なわけねぇだろ」と答えるけれど、井波や他の遊び相手とセックスしていたとしても、矢代自身はしばらく射精していなかったのだろう。
 第44話で百目鬼のことを考えながら自慰した時に、矢代の局部が描かれず、勃起したのか射精したのかもわからなかったので、もしかして…と思ったのが当たっていたように思う。

 以前より愛撫が上手くなった百目鬼に、矢代は「女か」と思う。

矢代「女だ女。いるんだろ…?」
百目鬼「さすがに よく気づきますね」

 百目鬼の答えを聞いて矢代は悲しそうな表情を見せる。「やっぱり、そうだよな…」と思っているよう。

 本当は百目鬼に女がいないことは、7巻第37話で

綱川「そういやお前、付き合ってる女は?」
百目鬼「いません」

というやり取りがあるので、読者にはわかっている。

綱川「ナニの処理は商売女か?」
百目鬼「自分で処理しています」

 そこまで赤裸々に言わなくても…と、こちらが恥ずかしくなるくらい正直に百目鬼が答えたのは、今となっては、第46話で矢代と一緒に読者まで「百目鬼には女がいるんだ…」と誤解してショックを受けないように、前もってヨネダ先生が用意してくれた布石だったのではないかと思う。
 7巻の特典ペーパーでも百目鬼が想定している「年増」は矢代ですよ、今でも矢代に恋をしているんですよと教えてくれている。

 なぜ百目鬼は、女がいる振りをするのか。
 それは、矢代に「まだ矢代を好きなこと」を気づかれたくないからじゃないかと思う。
 ≪矢代は自分に好意を持った人間を捨ててしまう≫と百目鬼が思っているから。
 そう考えると、7巻以降の百目鬼の態度がなんとなくわかってきた。

 矢代が自分に惚れている人間を捨てることは、七原と杉原が繰り返し百目鬼に教えている。

百目鬼「部下には手え出さないと言ってました」
七原「マジ惚れされたら困っからじゃねーの?」
  「本気で目の色違う奴とかいたけどよ。そういう奴は根こそぎ因縁つけて首切ってたからな」
  「ただヤリてえだけで面倒臭えの嫌いなんだろ?」(1巻第2話)

 矢代が撃たれて、その責任を取るために百目鬼が小指を詰めた後、七原が

「前話したろ。マジ惚れしたヤツ首切ってたっての。せいぜいバレねぇようにしろよ?」

と釘を刺している。(1巻第11話)

 6巻巻末の「飛ぶ鳥は言葉を持たない」でも再び七原が

「頭はよ マジな奴ダメだっつったろ?」

 と百目鬼を諭す。

 6巻29話で矢代に置いて行かれた百目鬼に、杉本が言う。

「あの人はな 面倒な持ち物はすぐ捨てんだよ」
「下半身しか興味ねえ人に 面倒くせえモン向けんなよ」

 百目鬼自身、「もし勃ったら、それを頭に知られたら、頭は俺を側に置かなくなる気がする」(2巻第6話)と予感していたし、おそらく「せっかくだし、セックスするか」(4巻22話)と矢代に言われた時も、≪したら、捨てられる≫ということがわかっていただろう。
 
 だから、第46話の百目鬼は、「矢代に惚れることなく、ただ性行為の相手をする」という、(昔の)矢代にとっての理想のセフレを演じているのではないかと思った。

 とはいえ、1~6巻の矢代が、口では「下半身しか興味ねぇ」と言いながらも、自分に全く好意を持たず、性的な相手だけをする百目鬼を望んでいたとは思えない。
 突き放しても突き放しても自分から離れない百目鬼を可愛い(ヨネダ先生の漫画における≪可愛い≫は好きと同義。「BL進化論・対話篇」参照)と思っていたに違いない。
 
 他の方も指摘しているように、百目鬼にイカされてうつ伏せになった矢代の背中に、百目鬼が触れようとして触れない2コマにこそ、百目鬼の本当の気持ちが表われている。
 ≪矢代に優しく触れたい。でも今はできない≫

百目鬼「ウチと仕事している間は俺で我慢して下さい」
   「一切の利害関係なくあの男(井波)と会っているんですか?」

 私には、≪他の男と寝ないでください≫と言っているように見える。
 百目鬼のこのセリフは、


「この身体をもう誰にも触らせたくない。俺しか いらなくなるように。俺しか 欲しくなくなるように」(5巻第24話)

 という気持ちと繋がっているはずだ。

 百目鬼が去り際に「面倒なら端金で引いてください」と言うのも、矢代が抗争に巻き込まれることを心配して、手を引かせたがっているからだと思った。
 矢代に触って、矢代がイクところを見て、ベッドの上で百目鬼はきっと勃っていただろう。
「病院であなたのを口でして」インポが治った時のように。
 家に帰って、矢代のことを思い出しながら自己処理するのだろうか…。

 部屋に一人残された矢代は「笑える」と言いながら、泣いているように見える。
 今更どうにもならないのに百目鬼に惹かれている自分にも、変わってしまった百目鬼とこんな関係になったことにも、心を痛めている。
 矢代はこの件から手を引かないだろうから、しばらく百目鬼とセフレ関係が続くのだろうけど、体だけの関係であることに、この先矢代も百目鬼も苦しむことになる気がする。
 百目鬼は矢代とどうなりたいんだろうか。

 矢代か百目鬼が死んじゃうんじゃないかとか、暗い終わりばかり想像していたけれど、もういっそ読者が驚くくらい幸せなハッピーエンドでいい気がしてきた。(現実逃避?)

(追記:これを書いた時には、私はまだ46話の持つ本当の意味には気づいていませんでした。私が46話を読んだ後、悩みに悩んで辿り着いた結論が「感想 その2」になります)


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