「囀る鳥は羽ばたかない」について 第45話

第45話(ihr HertZ  2021年9月号)

 7月号がヨネダ先生の体調不良のため休載だった影響で、何と51ページ。(読み応えがあって嬉しかったですが、ヨネダ先生のご健康が我々ファンの一番の願いです)

 表紙は青い鳥を捕らえようとする矢代とその左手首をつかむ百目鬼。「囀る」が表紙か巻頭カラーの時は、雑誌と電子書籍を両方買うことにした。
 
 前半は矢代たちが、城戸弟を使って城戸をおびき出す話。城戸が現れるのを待っている間、矢代と七原の会話の中で矢代がやはりあまり組を持ちたがっていないことがわかる。三角がこのままでいることを許さない気はするけれど。

 百目鬼はもしも矢代が組を持ったら、そこに戻りたいのだろうか。そうだとしても決して簡単なことではないだろう。落とし前をつけなければならない気がする。でも、部下に戻ってしまったら、矢代と新たな関係を築けないから(七原達だって矢代と百目鬼ができていたら働きにくいだろうし)、そんなことは望まないのだろうか。


 私がそんなことを考えている間に城戸とその仲間がまんまと待ち合わせの喫茶店にやってきて、矢代たちは城戸を捕まえる。城戸を締め上げているうちに、どうやら黒幕は他にいることがわかる。矢代が城戸に「昔ヤッたよしみだし」と話しかけると、百目鬼は気にしているような表情を見せる。


 城戸の後ろには桜一家と対立している奥山組がいることが判明する。どうやら城戸の件は桜一家と奥山組の抗争に発展しそうな気配だ。身内の怨恨に部外者を巻き込むわけには、と桜一家の若頭に手を引くように言われても、矢代は簡単に引き下がらない。表向きは金のためのようではあるけれど、矢代の真意はまだわからない。


 後半はファン待望の矢代と百目鬼のシーン。もう上司と部下ではないので百目鬼の運転する車の助手席に矢代が乗っている。矢代が助手席に乗るのは2回目で、1回目は平田と決着をつける前(6巻、第32話)のことだった。「俺と言う人間を手放さない」ために自分の気持ちに嘘をついてでも百目鬼を離そうとする矢代の気持ちが胸に刺さる名シーンだった。


 残念ながら今回はあの時とは違う。「この先危ない目に遭うかもしれないから、この件から手を引いた方がいい」と言うために百目鬼は矢代を送った。
「マジでそれだけか」と矢代が言うのに、百目鬼は取り合わない。

「強調して疑う意味がわかりません。他に送る理由はありません」

 まっすぐ前を向いたまま、冷たく答える百目鬼にむかついたのか、矢代は「もう近いから歩くわ」と車を降りてしまう。
 ここの矢代の態度はとても彼らしいなと思った。

「認める 俺がおかしい それはもう明白に 明らかに」
「距離感を失っている」


 百目鬼の態度に混乱する矢代。だが、自分が百目鬼に惹かれていることは自覚しているようだ。
 歩いてマンションのエントランス(以前住んでいた低層マンションから引っ越した)まで来た矢代に百目鬼が追いつく。焦って走って来た百目鬼を見て、「あ、ちょっと昔みたい!」と思ったのも束の間、百目鬼の口からは


「どうして欲しいんですか。どうにかして欲しいように見えます」

などという上から目線のセリフしか出ないから、矢代と一緒に「なんだよそれ」(生意気!!)と思う。
 そこに車に乗った井波がやってきてクラクションを鳴らす。矢代と約束があったようだ。車に乗ろうとする矢代を百目鬼が引き留める。

矢代「放せ」
百目鬼「そんなに男が欲しいんですか?」
矢代「ああそうだ。悪いか」


 手を振り払った矢代を、百目鬼が後ろから体ごと抱え込んで止める。

矢代「放せよ。この…」
百目鬼「じゃあ 構わないですよね。あいつじゃなくても」

 どういう意味⁉
 矢代のことが好きだから井波と遊んで欲しくないのはわかるけれど、なぜ百目鬼は「じゃあ俺でもいいですよね」みたいな言い方をするのだろうか。
 そんなふうに、矢代の遊び相手のその他大勢の一人に自分を落とす必要があるんだろうか。
 この場面を読んで、私は3巻の百目鬼を思い出した。

 矢代に井波として欲しくないけれど

「でも、やめて欲しいとは言えません。それがあなたのしたいことなら、仕方ありません」


 と悔しそうに扉の外で立っていたかわいそうな百目鬼を。
 私は二人のああいう関係が好きだったのだなと自覚した。
 上司と部下と言う主従関係の制約の中で、互いに対する気持ちを持て余して、どうしていいかわからなくなる二人が…。

 46話で二人はどうなるのだろうか。まさかこのまま二人がするとは思えないので、矢代が「嫌だ」と断るのだろうけど。百目鬼の真意がわからない。矢代と一緒に百目鬼に振り回され続けて苦しい。

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