学校警備員をしていた頃 その33

 以前、学校警備の仕事をしてた頃のことについて振り返って思い出せることを書いています。
※ 最初から読みたい方は、学校警備員をしていた頃から読むことをおすすめします。
※ ひとつ前の話→学校警備員をしていた頃 その32

 「弟子をスカウトするために立っているんですか」
 朝、子どもたちや先生方が登校してくる8時から8時半の時間帯と並んで好きだったのが、午後の生徒が下校する時間帯だった。こちらは、下校時間が曜日によって違うし、その日その日で、クラスによって帰りの会が早く終わったり長引いたりするので、朝と違って毎日同じ時間に同じような生徒に会うというわけではなかった。
 この時間帯は、道の真ん中を歩いている子どもがいると「道のはじを歩きましょう」と大きな声で叫ばなければいけないし、帰っていく生徒や保護者に挨拶しないといけないから、学校警備にしては忙しい時間帯だった。が、生徒とのやりとりなどがいろいろと面白く時間が速く過ぎていくので、もちろん、暇で退屈するよりはこの方がずっと楽しかった。
 朝と同じように、手をぶらぶらさせたり敬礼したりしつつ子どもたちに「さようなら」と言うことが多く、子どもたちの反応は、朝と同じでさまざまだった。
 朝と違うところは、時間があるのでじゃんけんを挑んでくる子や、変な質問をしてくる子などがいるところだ。時々、私の姿を見ていきなり「ねえ、じゃんけんしよう」と言って「じゃんけんポン」「勝ったー」「負けたー」なんていうのが始まることがある。
 質問としては、「ねえ、おじさん何歳」というのが定番である・
「ねえ、おじさん何歳」
「おじさんではない。お兄さんです。私は、25歳のかっこいいイケメン警備士なのです」
「ウソだ。本当は70歳のおじいさん警備士なんでしょう」
「違います。若くてカッコいい25歳のイケメン警備士です」
「そんなこと言ってもだめだよ。70歳のダサいおじいさん警備士なのです」
「違います。25歳です。こんな簡単なこともわからないとは。君はまだまだダサいな」
「違うよ。ちゃんと本当のことがわかっている、カッコいい男の子だよ。もう、ダサいおじいさん警備士にはつき合いきれないので帰るのです」
 といった感じの楽しいやりとりになる。この学校は、いろいろとよくしゃべるちょっと生意気で頭がいい子が多かった。こういったことを言うのは、そんなに小さくない見た目3年生くらいから上の男の子たちである。
 それから、「ねえ、おじさん何歳」ほど頻繁ではないが、「おじさんなんでそこに立っているの」と言われることもあった。
「おじさん、なんでそこに立っているの」
「君たちがちゃんと道路のはじを通って安全に下校しているか見張っている警備員だからです」
「ウソだ。警備員の弟子をスカウトするために立っているんでしょう」
 と言っていたのは、見た目が中学年(3・4年)の可愛い男の子だった。
 その時は、校門のところで暇そうにしていた別の子のお母さん(らしき人)がいた。子どもと待ち合わせて一緒に帰ろうとしていたのだろうか。たまたまその時のやりとりを聞いていて、顔を真っ赤にしてすごい楽しそうに笑いながら、私に話しかけてきた。
「弟子を…スカウト…しようとして…立っているんですか」
 笑いながら話しているので話が途切れがちである。
「そうらしいんですよ」
「子供の考えることは面白いですね」
「そうですね」
 確かに、子どもの考えることは面白いな。と思った。
 と同時に、それを面白がり顔を真っ赤にして笑いつつ話すそのお母さんの様子も、負けず劣らず面白かった。あんなに心の底からお腹をかかえて笑っている人を見たのは10年ぶりくらいだろうか。いや、10年どころではない。30年ぶりくらいとか、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。
 子どもたちも楽しい子どもたちだが、それに劣らず親も楽しい人が多い。子どもは親に似ると言うが、これも地域性のようなものなのだろうか。

※ 次の話→学校警備員をしていた頃 その34

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