大正8年を舞台に、屋敷での不可能犯罪を描く辻真先最新刊『命みじかし恋せよ乙女 少年明智小五郎』
『深夜の博覧会』『たかが殺人じゃないか』『馬鹿みたいな話!』の〈昭和ミステリ三部作〉に続く、辻真先の最新作『命みじかし恋せよ乙女 少年明智小五郎』は大正8年(1919年)の東京。まだ、世田谷区が世田谷村だったころの駒沢周辺がその舞台。
帝国新報の記者・可能勝郎が玉電(東急田園都市線の前身)の駅に降り立ち、取材先の守泉家に向かいます。守泉家は、広大な敷地の中に上空から見ると平仮名の「む」のような形をした「むの字屋敷」。そこで巻き込まれた、不可能犯罪に勝郎と、そして当時売り出し中だった“探偵小僧”明智少年が立ち向かいます。
辻さんのファンの方はピンときたかもしれませんが、今作の主人公・可能勝郎は可能克郎、可能キリコ兄妹のお祖父さん。そして、帝国新報は『深夜の博覧会』にも登場する「夕刊サン」の前身の会社です。つまりは、〈ポテトとスーパー〉シリーズにも、〈昭和ミステリ三部作〉にも直接繋がり(もちろん辻さんの作品、ほとんどが繋がっているのですが)がある作品となります。
一方で“探偵小僧”明智少年が登場するということで、今年生誕130年をむかえた江戸川乱歩とも繋がりがあります(ですので、辻さんの『焼跡の二十面相』『二十面相 暁に死す』の両作にもリンクしてるはず)。
今作、アイディアをいただいたのは少し前のこと。〈昭和ミステリ三部作〉の『たかが殺人じゃないか』を刊行した時の取材の際だったかと。「緊縛画の伊藤晴雨が登場する作品を書きたい」とおっしゃっていました。仕上がってみると、伊藤晴雨だけでなく実在した人物も物語に有機的にリンクして登場するなど、驚かされるばかりです。
カバーはデジタル切り絵もされているイラストレーターのカナリ・カナイさんにお願いしました。レトロモチーフのイラストも手掛けており、今回の世界観にマッチするだろうと想像した以上の仕上がりです。販促用のイラストも描いていただきましたので、こちらに紹介させていただきます。カナイさんありがとうございました。
■辻真先(つじ・まさき)
1932年愛知県生まれ。名古屋大学卒。NHK勤務後、『鉄腕アトム』『サザエさん』『サイボーグ009』『デビルマン』『Dr.スランプ アラレちゃん』など、アニメや特撮の脚本家として幅広く活躍。72年『仮題・中学殺人事件』でミステリ作家としてデビュー。82年『アリスの国の殺人』が第35回日本推理作家協会賞を、2009年に牧薩次名義で刊行した『完全恋愛』が第9回本格ミステリ大賞を受賞。19年に第23回日本ミステリー文学大賞を受賞。20年刊行の『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』は、年末ミステリランキング3冠を達成する。近年では、アンソロジーへの寄稿や同人活動も積極的に行なっている。