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温泉という文化

萌ちゃんを撮影したのは別府の街がラグビーワールドカップで沸きに沸いていた時期だ。新型コロナウイルスの影響で街に観光客がほとんどいなくなった今でこそ想像がつかないが、街には海外からの観光客が溢れかえっていた。

とはいえ、市の原温泉がある新別府辺りは駅周辺の喧騒が嘘のように静まり返っていた。別府の公衆浴場には様々な人が訪れるが、地元住人しか来ない温泉も沢山あって、市の原温泉のように古くて浴槽も小さい温泉の一日の利用者は限られている。

萌ちゃんを撮影した時も女子風呂での撮影だったので貸し切り状態にはしてもらったのだが、撮影中の利用者はいなかった。僕も別府にいる間はよく公衆浴場に入りに行くが、9割はお年寄りで学生や子供と一緒になることは本当に少ない。

新しく建つマンションには住人専用の温泉があったり、年数が経って味はあるが、お世辞にも綺麗とは言えない温泉も多く、昔よりも公衆浴場を利用する人は確実に減って来ている。観光客のマナー、管理者の高齢化、維持費の問題など、ルートハチハチの企画自体最後まで撮影出来るのだろうかという不安すらよぎる。

萌ちゃんをインタビューしていても思ったことだが「お風呂に入る」というのはそのままライフスタイルにも直結する。もしかしたら浴槽に浸かるという手間をかける人が減って来ているのかもしれない。

温泉という文化が続いているこの別府という街ですらそんな現状だ。萌ちゃんを撮影して、記事をアップする間にも2つの公衆浴場が営業を停止した。果たしてこの先、古い公衆浴場を別府は維持していけるのだろうか?
移り変わる時代の中でこうやって88か所の温泉を撮り続けることにも、少しは意味があるのかもしれない。そんなことを思った撮影だった。

ちなみに今回温泉での写真が少ないのは萌ちゃんの諸事情のため。一枚も掲載出来なかったのは読者の方には申し訳ない。

2020.6.6 東京神父
市の原温泉「MOE RU CITY BEPPU」

東京神父 写真家。1978年4月20日生まれ。 別府出身、自由が丘在住。